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7月, 2022の投稿を表示しています

■初期フランクフルト学派を評価する

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    八木紀一郎『 20 世紀知的急進主義の軌跡』みすず書房   八木紀一郎さま、ご恵存賜りありがとうございました。    本書は、初期フランクフルト学派の思想家・社会科学研究者たちの研究と人生を追っています。知的急進主義という立場ですが、これは当時の社会をラディカルに批判して、社会主義を擁護するものですね。戦時中のこの学派の担い手たちは、全体主義と資本主義を批判する立場に立ち、さまざまな研究成果を生みました。 しかし戦後になって、かれらはどのようになったのか。本書を読んだかぎりでは、かれらはあまり見るべき成果を上げなかったようですね。  若い頃に成果を上げたけれども、晩年になって成果を上げなかった人たちの人生を丹念に追ってみると、これはこれで学ぶべきことがあります。学者や思想家の人生というものが、いかに困難であるのか。  フランクフルト社会研究所の創設者のワイルは、社会主義経済計算論争で、カール・ポランニーの立場をも批判する急進的な社会主義計画経済の立場に立って、議論を展開しました。しかしその後、アルゼンチンに行くのですね。戦後はアメリカに移って、民主党員として地域政策に関与したりもする。しかし研究業績としては、見るべきものがないようですね。ワイルは自伝を書いたので、私たちは彼の人生を知ることができる。  ポロック、アドルノ、ホルクハイマーの三人は、戦後、フランクフルトに帰還して、独自の批判理論を発達させます。社会主義を擁護するのではなく、オートメーション化による人間支配の問題を提起します。これは当時、意義深い議論であったと思います。  ウィットフォーゲルの場合、かれは当初、正統派の共産主義を支持したのですが、最終的にはこれをアジア的専制という観点から批判する。その研究成果は、たしかに批判理論として評価すべき点もあるのかもしれませんが、ではどんな社会が望ましいのか、ビジョンを与えていません。批判理論はその後、ハーバーマスによって規範理論としての体系化がすすみますが、それ以前の担い手をどのように評価すべきかは、あらためて思想史的な問題になると思いました。

■福祉国家1.0, 2.0, 3.0という三層論

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    デイヴィッド・ガーランド『福祉国家』小田透訳、白水社   小田透さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。    福祉国家の歴史について、コンパクトに紹介した入門書です。スタンダードな内容であり、多くの人が納得するような歴史の再構成になっていると思います。  本書は、福祉国家を「 1.0 」「 2.0 」「 3.0 」とう三つの段階に分けています。  福祉国家 1.0 は、次の五つのセクターからなるとされます (70 頁 ) 。 (1) 社会保険、 (2) 社会扶助、 (3) 公的資金によるソーシャル・サービス、 (4) ソーシャルワークとパーソナル・サービス、および、 (5) 経済のガバナンス、です。  次に「福祉国家 2.0 」は、新自由主義による民営化を指します。しかし実際には、新自由主義の政策が導入されても、「福祉国家 1.0 」の大半は生き延びて、制度として盤石でありつづけている、ということですね (163 頁 ) 。  「福祉国家 3.0 」というのは、経済のグローバル化、脱工業化、労働市場の変化(不安定化・共働き化)、ジェンダーと家族形態の変化、人口動態の変化、移民、文化的変化、新たな社会的リスク(貧困)などに対応する制度、体制、ということですね。これは各国でさまざまな違いがあります。  このように整理してみると、「福祉国家 1.0 」と「 2.0 」は相反するものというよりも、相互に結合して一つの福祉国家体制を生み出した。また「福祉国家 2.0 」と「 3.0 」は、ほぼ同時に生じている。 2.0 から 3.0 に移行したわけではないようにみえました。  問題は、「福祉国家 3.0 」の諸政策を推進するのは、各国において、リベラルな勢力であるのかどうか。保守の立場も、基本的にはこの福祉国家 3.0 を推進する立場に立っているのではないか、ということです。とすると、さまざまな政策分野で、リベラルはどの政策をどのように推進する理念たりうるのか。こうしたことが問題になるのではないか、と思いました。

雑感:最近の研究を振り返って

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    Tsutomu Hashimoto, Liberalism and the Philosophy of Economics , London: Routledge, 2022(?)    英語で単著を出版することになりました。今年の秋、 9 月には刊行されるのではないかと思います。 先月の 6 月 13 日、校正と索引づくりのすべてを終えて、ルートレッジ社に完成稿を提出しました。このあと、索引の校正がありますが、それ以外の部分は実質的に手を離れました。いまのところネット上の案内では、刊行予定は来年となっています。 2023 年刊、しかし実質的には、 2022 年秋の刊行になるかもしれません。  今回、私にとって、はじめての英語の単著の刊行になります。 最後の校正の過程は、スペルの間違いや、英文校正業者によるミスの発見など、いろいろなレベルで細心の注意力を払って入念に行いました。校正箇所は全部で 148 カ所に上りました。これらの修正をすべて PDF の修正機能やコメント機能を使って、画面上で記していきます。すべて英語で校正の指示を書き込みます。このようなやり方は初めてでしたので、やはり特別の注意力が必要でした。 索引づくりももちろん英語であり、こちらも職人的な技量を要する作業でした。索引づくりの作業は、その多くを出張先の高知で行いましたので、その思い出は、とりわけ高知のオーテピア図書館を利用した思い出と重なるでしょう。 索引づくりというのは、大した作業ではないとは思いますが、今回この作業は、私の人生の一つの終着点の一歩前になるという感覚でした。この英語の著作の刊行によって、私の研究人生は、大きな山を越えることになります。その最終段階がこの作業であり、特別の時間でした。 昨年の 2021 年は、拙著『自由原理』を上梓しました。この本は、日本語としては私の主著になるものでしょう。この本の刊行も、私にとって人生の一つの山でした。ですが今年は英語での刊行です。しかも Routledge 社からの刊行ということで、これは岩波書店からの刊行よりもさらにハードルが高く、おそらく今回の出版が、私の人生の山になるだろうという気がします。 昨年は『自由原理』を刊行した後に、単著の『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』、編著の『ロスト