■福祉国家1.0, 2.0, 3.0という三層論
小田透さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
福祉国家の歴史について、コンパクトに紹介した入門書です。スタンダードな内容であり、多くの人が納得するような歴史の再構成になっていると思います。
本書は、福祉国家を「1.0」「2.0」「3.0」とう三つの段階に分けています。
福祉国家1.0は、次の五つのセクターからなるとされます(70頁)。(1)社会保険、(2)社会扶助、(3)公的資金によるソーシャル・サービス、(4)ソーシャルワークとパーソナル・サービス、および、(5)経済のガバナンス、です。
次に「福祉国家2.0」は、新自由主義による民営化を指します。しかし実際には、新自由主義の政策が導入されても、「福祉国家1.0」の大半は生き延びて、制度として盤石でありつづけている、ということですね(163頁)。
「福祉国家3.0」というのは、経済のグローバル化、脱工業化、労働市場の変化(不安定化・共働き化)、ジェンダーと家族形態の変化、人口動態の変化、移民、文化的変化、新たな社会的リスク(貧困)などに対応する制度、体制、ということですね。これは各国でさまざまな違いがあります。
このように整理してみると、「福祉国家1.0」と「2.0」は相反するものというよりも、相互に結合して一つの福祉国家体制を生み出した。また「福祉国家2.0」と「3.0」は、ほぼ同時に生じている。2.0から3.0に移行したわけではないようにみえました。
問題は、「福祉国家3.0」の諸政策を推進するのは、各国において、リベラルな勢力であるのかどうか。保守の立場も、基本的にはこの福祉国家3.0を推進する立場に立っているのではないか、ということです。とすると、さまざまな政策分野で、リベラルはどの政策をどのように推進する理念たりうるのか。こうしたことが問題になるのではないか、と思いました。