■初期フランクフルト学派を評価する
八木紀一郎さま、ご恵存賜りありがとうございました。
本書は、初期フランクフルト学派の思想家・社会科学研究者たちの研究と人生を追っています。知的急進主義という立場ですが、これは当時の社会をラディカルに批判して、社会主義を擁護するものですね。戦時中のこの学派の担い手たちは、全体主義と資本主義を批判する立場に立ち、さまざまな研究成果を生みました。
しかし戦後になって、かれらはどのようになったのか。本書を読んだかぎりでは、かれらはあまり見るべき成果を上げなかったようですね。
若い頃に成果を上げたけれども、晩年になって成果を上げなかった人たちの人生を丹念に追ってみると、これはこれで学ぶべきことがあります。学者や思想家の人生というものが、いかに困難であるのか。
フランクフルト社会研究所の創設者のワイルは、社会主義経済計算論争で、カール・ポランニーの立場をも批判する急進的な社会主義計画経済の立場に立って、議論を展開しました。しかしその後、アルゼンチンに行くのですね。戦後はアメリカに移って、民主党員として地域政策に関与したりもする。しかし研究業績としては、見るべきものがないようですね。ワイルは自伝を書いたので、私たちは彼の人生を知ることができる。
ポロック、アドルノ、ホルクハイマーの三人は、戦後、フランクフルトに帰還して、独自の批判理論を発達させます。社会主義を擁護するのではなく、オートメーション化による人間支配の問題を提起します。これは当時、意義深い議論であったと思います。
ウィットフォーゲルの場合、かれは当初、正統派の共産主義を支持したのですが、最終的にはこれをアジア的専制という観点から批判する。その研究成果は、たしかに批判理論として評価すべき点もあるのかもしれませんが、ではどんな社会が望ましいのか、ビジョンを与えていません。批判理論はその後、ハーバーマスによって規範理論としての体系化がすすみますが、それ以前の担い手をどのように評価すべきかは、あらためて思想史的な問題になると思いました。