■政治思想史の語り方
リチャード・ワットモア『入門 政治思想史』齋藤純一 / 稲村一隆訳、中央公論社 齋藤純一さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。 この本の最初に、 1783 年に書かれた風刺画が出てきます。とてもインパクトがあります。ネットでも、大英博物館のデータベースにあります。 https://www.britishmuseum.org/collection/object/P_1868-0808-5058 この風刺画に書かれているのは、当時のホイッグ党の政治家( チャールズ・ジェームズ・フォックス ) です。ギャンブル狂いだったそうです。その政治家が、首相のノース卿の顔をしたゾウの上に乗っています。そしてもう一人、保守主義の理論家として知られるエドマンド・バークもいます。バークはどうも、この二人の政治家を支持しているようです。これはどういうことでしょう。 バークは、保守主義の政治思想家として知られます。ではバークは、どんな政治を支持したのか。政治思想史を勉強して、その社会的・歴史的な文脈を知ろう、というのですね。 入門書として、読者をぐっと引きつけます。 本書の解説で、本書の著者のワットモアが、一定の思想的立場に立っていることが明らかにされています。それは、文脈を重視する立場(言い換えれば、個々の文脈を重視しないグローバリズムの立場に対する批判的な立場)であり、また、新自由主義を批判する立場であり、歴史を軽視する政治理論を批判する立場であり、政治においては「新しいものは何一つない」 (15 頁 ) とする保守的な立場です。 著者のこのような立場は、もしかすると、政治思想史を教える際に、バイアスがかかりすぎかもしれません。解説(齋藤純一執筆)では、このワットモアの立場を相対化するために、ロンドン大学教授のエイドリアン・ブローのアプローチが、合わせて紹介されています。ブローの立場と比較すると、ワットモアの立場が保守的であることが分かります。 いずれにせよ、 20 世紀の前半から中ごろにかけて、政治思想史というものは、偉大な思想家の主著の内容を「カノン(経典)」として教えるという方法をとってきたのですね。ワットモアはこのような教え方を相対化して、主著以外のテキストも再構成して学ぶことが重要だ、と主張したので...