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■二宮尊徳と松下幸之助はリベラル

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  岸泰正『経営哲学と人間観 経営学者の形而上学的論理に対する批判的考察』中央経済社   岸泰正さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。    この本には、日蓮上人から稲盛和夫にいたるまで、著名な日本の経営者・経営思想家の 42 人のリストがあります。これを見ると、いろいろな思考を喚起されます。  日本で重要な経営思想は、仏教や儒教を背景にしているため、宇宙との関係で人間を捉える点が共通している、というのは興味深いです。宇宙と人間の関係を、どう捉えるのか。形而上学的ですね。  しかしそれ以上に、本書の最後まで読み進めると、日本の経営思想が、どこまでリベラルなのか(人間の個性と多様性を尊重するのか)、という問題を検討していて、これが興味深いですね。   246 頁の図 8-8 は重要です。鈴木正三、石田梅岩、渋沢栄一、稲盛和夫は、反リベラルだという評価ですね。これに対して二宮尊徳と松下幸之助は、リベラルだったという評価なのですね。  人間と宇宙の同一化を求める思想は、個人の違いを尊重しない傾向にあります。しかしそうした中で、どのようにして他者を尊重するのか。そのような哲学・経営思想を読み解くと、リベラルの価値が析出されます。  二宮尊徳と松下幸之助は、いずれもナショナリズムの道徳という観点から評価されがちですが、そこにリベラルな要素を読み込んで、リベラルなナショナリズム、リベラルな集団主義(会社主義)という立場として評価できる。これは思想研究の成果として、重要だと思いました。

■転勤と給与とジェンダー

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  大槻奈巳編『ジェンダー公正な人事制度とはなにか 雇用管理区分・転勤制度・見直しの実態と課題』勁草書房   大槻奈巳さま、執筆者のみなさま、ご恵存賜りありがとうございます。    本書の調査によると、一回も転勤したことがない人は、男性で 44% 、女性で 57% 。回答者の 2/3 は転勤したくない、と答えています。転居を伴う転勤は、家族の負担が大きいと答えた人は 85% でした。  雇用管理として、全国どこにでも行く被雇用者、それとも行かない被雇用者、という区別があります。勤務地の限定を希望した場合の給料は、全国転勤型の 80-90% 程度になります。昇進も制限されることが多いです。  本書で調査したある会社では、男性の 8 割は、勤務地を限定せず(つまり全国どこでも行くことを選び)、業務範囲も制限も設けない、という選択をします。これに対して女性の 6 割は、転居を伴う転勤なしを選び、特定業務のみを選択します。  こうした状況で、「ジェンダー公正」を実現するためには、どうすればいいのか。それは「転居を伴う転勤なし」で「特定業務のみ」でも、女性を差別せずに昇進できるような雇用体系にすることが必要だ、というのですね。また、転居を伴う転勤をして、職業能力が上がったと回答する人は、約半数にとどまるというのですね。  女性の方が男性よりも、家族を優先してしまう(家族に負担をかけたくないので勤務地を変えたくないという)。このような状況で、女性の場合は、勤務地を変えなくても昇進できるように、アファーマティヴな制度支援をすることは可能でしょうか。あるいは子育中の社員に対しては、転勤を迫らないという配慮は、すでにあるのかもしれません。  女性社員に対するアファーマティヴな対応が、制度的に求められるのではないかと思いました。  

■財政規律をルール化した国々

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横田正顕編『財政規律の比較政治経済学』有斐閣   加藤雅俊さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。    オーストラリアは、 1998 年に、予算公正憲章法 (charter of Budget Honesty Act) を制定して、健全な財政を憲法でルール化したのですね。すなわち、財政リスクの管理、国内貯蓄の確保と循環的景気変動への対応、税負担水準の安定性、税体系の整合性、将来世代への配慮、の五つをめぐるルールです。 ジョン・ハワード( John Howard )が率いる保守連合政権は、 1996 年から 2007 年までの 12 年間、オーストラリアの政権を担当しました。 それ以前の労働党による財政悪化を克服するために、保守連合政権は、財政ルールを作ったのですね。さらに対米同盟強化、厳格な移民・難民政策(太平洋解決策)、多文化主義への批判などの立場をとりました。経済的に安定した成長をもたらしました。  この財政の憲法化は、元々、ジェームズ・ブキャナンが提唱した考え方です。 21 世紀に入って、いろいろな国で導入されるようになりました。例えば、・・・   ドイツ: 2009 年、ドイツは基本法を改正し、財政赤字を GDP 比 0.35% に制限し、州政府の財政赤字を禁止する「債務ブレーキ」を導入した。 スイス: 2001 年に憲法上の債務ブレーキを導入( 2003 年施行)。これにより、景気循環に合わせて調整された均衡財政が義務付けられる。 ポーランド: 1997 年憲法は、公的債務が GDP 比 60% を超えるような財政的義務を負うことを禁止している。 スペイン: 2011 年に憲法を改正し、国レベルおよび地方レベルの両方で均衡財政を義務付け、 2020 年から財政赤字の上限を定める。 イタリア: 2012 年に憲法に均衡財政に関する条項を追加し、財政構造の均衡を義務付けた。 フランス: 2008 年に憲法第 34 条を改正し、公共部門の財政収支の均衡を目標に盛り込んだ。 スロベニア: 2013 年に憲法に均衡財政条項を盛り込んだ改正案を承認し、 2015 年に施行された。香港:基本法(第 107 条)は、予算を均衡させ、 GDP 成長率に比例させることを義務付けている。...

■立憲民主党の支持層は排外主義を強く否定していない

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桑名祐樹『社会階層と政治の分断 調査データで読み解く対立と格差』勁草書房 桑名祐樹さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。    日本人の投票行動と政党の関係について、独自の統計分析をしています。  まず、社会意識の違い、例えば「リベラル」と「保守」の違いによって、投票行動に差が生まれないというのは、興味深いです。  例えば、「いまの日本社会は格差が拡大している」と思っている人と、そのように思っていない人がいるとします。この場合、格差の拡大を感じている人の方が、社会問題に敏感で、投票する傾向が高くなるのではないかと思いますが、そうでもないという結果なのですね。  ただ、大卒と非大卒で、大卒の人の方が投票する傾向にあるのですね。  立憲民主党の支持層は、大卒が多いです。大卒の人たちは、あまり格差が拡大していないと感じていて、しかも競争社会を肯定する傾向にあります。とはいえ、立憲民主党の支持者は、大卒が多いとはいえ、格差の拡大を心配し、競争主義の社会は良くないと考えます。つまり、立憲民主党の支持層は、大卒の人たちの中で、ややマイナーな人たちである、ということになります。  ただ、 2009 年に民主党が政権を執ったときには、広範な人たちに支持されました。 「所得をもっと平等にすべき。」 「生活に困っている人たちに手厚く福祉を提供すべき。」 「競争は格差を拡大させるなど問題の方が多い。」 「権威ある人々にはつねに敬意を払わなければならない。」 「伝統や慣習にしたがったやり方に疑問を持つ人は、結局は問題を引き起こすことになる。」 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ。」・・・ このような質問に対して、答えが「はい」でも「いいえ」でも、どちらも民主党に投票したのですね。統計的に有意な偏りがなかったのだと。  ところが、 2017 年に結成された立憲民主党を支持した人たちは、再分配の拡大を支持しました。その一方で、支持者たちは、中国に対する排外主義を否定するわけではなかった(つまりナショナリズムの傾向が強まった)というのですね。  この分析から私が得たことは、立憲民主党の支持層は、権威とナショナリズムについて、そこまで強い意識を持ったリベラルによって支えられているわけではない、ということです。すでにこの時点で、従来のリベラル - 保守の軸では、捉えられない支持層になっ...

■日本のエネルギー自給率

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宇佐美誠編『エネルギー正義 公正な脱炭素へ』明石書店   宇佐美誠さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。    気候変動訴訟や、若者の気候変動社会運動を扱っている、ホットな内容です。 とくにマヌエラ・ゲルトハート・ハルトヴィッヒ著、第三章「エネルギーシステムの不正義性」を興味深く読みました。 太陽光発電や電気自動車のバッテリー用の鉱物は、第三世界で採掘されていることが多く、児童労働の問題があります。またその鉱物は、採掘された後に、中国で加工されているので、諸国の経済は中国に依存してしまう、という問題があります。 日本のエネルギー自給率は 11.3% で、 37 位です。これを引き上げる必要があるのですね。しかしこれは、正義の問題というよりも、国防の問題として捉えた方が、ストレートだと思いました。 日本は現在、化石燃料を段階的に廃止する取り組みが不足しています。これを進めることが、エネルギー正義の最大の論点なのでしょう。 また日本は、日本国際協力銀行を通じて、フィリピンなどの国の LNG のガスプロジェクトに融資している、というのですね。これは不公正な融資であり、地球の友ジャパンは 2024 年に、日本政府に対して、化石燃料への資金提供を停止するように求める請願書を発表しました。 LNG のほうが、石炭よりも 24% 、気候に悪影響を及ぼすのですね。 このような問題をどのように克服していくべきなのか。注視していきたいと思います。

■脱成長の多様な意味について

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桑田学『環境と社会思想』放送大学   桑田学さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。    本書は、放送大学の「大学院」のテキストです。新しい思想史の分野を切り拓いたと思います。内容の仕込みに、大きなエネルギーを感じました。 環境の観点から社会思想を振り返ると、デカルトやベーコンやロックなどの思想家の思想も、新たな視点で読み直すことができます。フレッシュでした。  そして、最後の章で「脱成長」論について検討しています。脱成長とは、「反成長」ではなく、何らかの well-being の成長を想定していると思いますが、その解釈は一義的ではないのでしょう。脱成長は、「経済成長ではいけない」という批判を共有しているけれども、積極的に何が望ましいのかについては多様なのだと思いました。 ただ、 GDP が増えるか減るかは、「脱成長」の観点から、あまり意味がないというのですね。脱成長派は、「 GDP を減らせ」と言っているわけではないのですね。  経済成長は、人間生活の生態的な基盤を破壊するから望ましくない。だから生態系を維持する生活と経済圏を築いていくべきだと。 この考え方は、「脱成長」と言わなくても、エコロジー派であれば、受け入れられるでしょう。 経済成長は、私たちの生活を誤って測定するものである。この批判も、ウェルビイング論全般の主張と同じです。  経済成長は、疎外を作り出す。これはマルクス主義とヒューマニズムの論点であり、脱成長と言わなくても、これまで議論されてきました。  経済成長は、資本主義的な搾取と蓄積に依存する。これも、マルクス経済学が問題にしてきたことで、この観点からいえば、脱成長とは、社会主義の経済を作ることであり、そのためには搾取と蓄積を克服しなければなりませんが、それをどうやって実現するのかが問題です。  経済成長は、ジェンダー化された搾取に基づいている。この批判は、フェミニズムによる批判です。  経済成長は、非民主的な生産力や技術を作り出す。この批判は、これまで、産業民主主義の観点から提起されてきました。  経済成長は、資本主義の中核と周辺のあいだに、支配、採取、搾取の関係を生み出している。この批判は、これまで南北問題として語られてきました。  こうしてみてくると、「...

■巨大IT企業を分社化すべきか

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松井暁『入門 資本主義 私たちの生きる世界』地平社   松井暁さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。     2024 年 8 月、米国の地方裁判所は、グーグル社が「検索」と「広告」の市場で、競合他社を競争から排除したとして、反トラスト法違反の判決を下しました。  つまりグーグル社は、独占企業だというわけです。ではグーグル社を分割して、自由競争を促すべきでしょうか。 米国民主党の議員、エリザベス・ウォーレンは、巨大 IT 企業の独占を解体すべし、と訴えています。また、 2021 年にバイデン大統領は、連邦取引委員会の委員長に、左派のリナ・カーンを任命して、独占資本を制約する方向に、法の改正をすすました。このように米国では、左派が中心となって、独占を批判し、自由競争を求めています。  しかしマルクス主義は、別の発想をするというのですね。   (1) 独占であれ自由競争であれ、資本主義は望ましくない。   (2) 独占の解体は、消費者に不利益をもたらす。   (3) 独占を解体しても、巨大企業が支配する社会構造を根本的に解決することはできない。   (4) いかなる独占が国民にとって不利かは分からない。  マルクス主義は「左派」と言われますが、米国の「左派」とは正反対です。マルクス主義者の提案は、巨大企業の民主的規制であり、労働条件の改善であり、地域経済への配慮であり、消費者の保護であり、情報の公開だ、というのですね。そしてさらに、巨大企業を公有化していくべきなのだと。  グーグル社を分社化するか、あるいは分社化せずに、その株式を米国がすべて保有する方向に変革していくのか。この違いです。  私の関心から言うと、グーグル社のような巨大企業については、株式の保有を強制的に分散させることが望ましい。各国はその国民が利用する割合に応じて、株式を保有する。そのように義務づける。これはほとんど不可能に見えますが、このような政策をした場合に何が生じるか、考えてみる価値があると思いました。