■日本は1941年にハル・ノートを丸呑みすべきだった
橋爪大三郎『日本人のための地政学原論』ビジネス社 橋爪大三郎さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。 地政学というのは、学問としては物足りないところがある。アカデミアに根を下ろしていない。あまりいい本がないし、荒っぽい骨組みにすぎない。だから社会科学やリベラルアーツで肉付けして、地政学の教科書を書いてみよう。そのような狙いで本書が生まれたのですね。 地政学的に言えば、日本は何よりも、戦争に負けた経験を活かさなければならない。最大の問題は、「ハル・ノート」( 1941 年 11 月 26 日にアメリカが日本へ提示した外交文書(覚書))を受け取った日本が、これを最後通牒と受け取って、開戦を決意したことです。本書によれば、このハル・ノートに書かれた要請を、日本政府は受け入れるべきだった、というのですね。 その内容は、 1. 日本は、中国、仏印から全面撤退する。 2. 日本は、蒋介石政権だけを認める。 3. 租界や治外法権を放棄するよう、日米が努力する。 4. 通商条約を結ぶ交渉を開始し、両国の資産凍結を解除する。 5. 日独伊三国同盟は、太平洋の平和に反しないと合意する。 以上の五つです。 ここで、「中国」に「満州」が含まれていない、という解釈が、ハル・ノートの草案に書かれていたのですね。米国は、満州について問題にしていなかったのだと。 「日本の軍部は、軍事を理解せず戦争が下手くそなうえ、政略も軍略も分からず、地政学を理解していない。だからハル・ノートを、前向きな提案だと受け取ることができなかった。では、どう考えればよかったのか。」 (218) 日本が戦争に負ければ、ハル・ノートの提案内容よりも、悪い結果を飲まざるを得ない。そして実際に悪い結果になった。もしこれが分かっていたのなら、日本はハル・ノートを丸呑みした方がよかった。当時の日本政府は、ハル・ノートを丸呑みしても、陸軍、海軍、そして米国に対して、うまく説得して政権を維持できたはずである。丸呑みした方が、日本の地政学的優位を保つことができたし、原爆を避けることもできたはずである。 このように考えてみると、地政学的に発想することは、戦争と平和の問題を考えるうえで、とても重要であ...