■市場社会主義は可能か
松井暁『社会民主主義と社会主義』専修大学出版局 松井暁さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。 社会民主主義の理念をもう一度評価直して、社会主義の思想的・政策的可能性を見出そうというのですね。現在の日本共産党やその他の社会主義・共産主義政党の立場を、現実的な観点から位置づけようとすれば、この本に書かれているような論理になるのではないか、と思いました。 総論として、マルクス主義、あるいはマルクス派が、一枚岩ではなく、結構、多様だということが分かりました。 マルクス派は、資本主義の形成期(日本では 20 世紀の後期を含む)には、経済成長が重要だと考え、労働を奨励し、国家による経済のコントロールが必要だと考え、経済ナショナリズムを推進してきました。しかし資本主義が成熟すると、マルクス派の一部は、「定常社会」を求めるようになる。背後には、経済成長社会の追求が現実的ではなくなったという認識があるのでしょう。またマルクス派の一部は、脱労働(自由時間の拡充)、国家の縮小、コスモポリタンな連帯(例えば航空税のような国際的な課税制度への賛同)、などを主張するようになります。 本書の立場も、一方では、資本主義の下で福祉国家を追求する道(社会民主主義)は、その役割を終えたという立場をとりながら、他方では、「市場社会主義」の理念を掲げ、計画経済へ移行しなければならない、としています。 その際の論点は、国家がすべての企業に対して、生産手段の社会的所有を法的に義務づけるかどうか、にあるのではないか。 例えば大学という組織は、その設備を社会的に所有して、そこで働く教員たちの労働を社会的に所有し、さらにその生産物たる学術的成果を公開する(オープンにする)ことによって、市場社会の条件の下で共産主義の理念にふさわしいことをいろいろ実現できているのだと思います。このような組織の在り方を拡張していけば、やがてすべての組織は社会主義的に運営できるかもしれない。ではそのための道筋をどのように描くのかですが、政策ビジョンを争うことが必要です。政策をめぐる論争のなかで、あらためてイデオロギーの真価が問われるのではないか、と思いました。