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11月, 2025の投稿を表示しています

■スマホに時間を取られすぎると

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  ヨハン・ハリ『奪われた集中力 もう一度 “ じっくり ” 考えるための方法』福井昌子訳、作品社    この本は、世界で 100 万部のベストセラーであり、韓国で 25 万部のベストセラーなのですね。日本でも売れているでしょうか。それほど読みやすいわけではなく、筆者が自分の体験談を語る部分が多くて、しかも、それなりの分量です。  売れる理由はおそらく、世界では多くの人たちが、スマホや PC に時間をとられすぎていて、人生の満足度が低いという事実にあるのでしょう。  人々はネット漬けで、集中力がなくなってきた。人生をじっくり考えなくなったのだと。  平均的な米国人は、毎日、スマホを 3 時間 15 分、いじっています。これは長いでしょうか。スマホだけでなく、パソコンも使うでしょうから、全体で考えたいですね。 別の調査では、米国人は毎日、 5.4 時間、スマホをいじっている、という報告もあります。   1986 年の段階では、スマホはありませんでした。パソコンはありましたが、インターネットはありませんでした。その頃の人々は、テレビ、ラジオ、読書、新聞などで、情報を摂取していました。その情報量を新聞に換算すると、毎日 40 紙の情報を摂取していたことになります。  同様の計算方法で、 2007 年の人々は、どれだけの情報を摂取していたのでしょうか。調査によると、新聞換算で、 174 紙になるというのですね。これは四倍以上です。すると 2025 年の現代人は、もっと情報を摂取しているでしょう。  その一方で、現代においては、スマホで随時メッセージを受け取っていると、成績が悪くなる、という結果も報告されています。 睡眠時間は、この 100 年で 20% も減っています。肉体労働をしなくなった分だけ、現代人は睡眠時間を減らすことができるのかもしれません。しかし睡眠時間の減少は、集中力を削いでいるのかもしれません。  現在、約 57% の米国人は、一年間に一冊も本を読まないそうです。 2008 年から 2016 年にかけて、米国の小説市場は、 40% も縮小したといいます。これもまた、現代人の集中力の欠如を示すデータかもしれません。  この本から得られる教訓は、スマホをいじらないで、読書量と睡眠時間をともに増やし...

■日本人は日本の映画を見るようになった

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間々田孝夫『幸福のための消費学』作品社   間々田孝夫さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。    「グローバル化」や「グローバリゼーション」という言葉が、一時期はやりました。 この言葉を含むタイトルの本は、どれだけ出版されてきたのか。国立国会図書館の図書検索で、検索してみると、 2004 年がピークで、 314 冊でした。ところが 2023 年には、 36 冊にまで減っているのですね。 しかもこれは、たんに言葉の流行が終わったという問題ではなく、社会の実態として、グローバル化とは逆の流れを示している。  例えば、映画産業です。   2005 年は、邦画:洋画の興行収入比は、 41.3% : 58.7% でした。   2024 年は、邦画:洋画の興行収入比は、 75.3% : 24.7% になりました。  つまり日本人は、諸外国の映画を見なくなった。これはまさに、グローバル化とは逆の動きです。  「グローバル化」というと、コカ・コーラや、マクドナルドのハンガーガーや、スターバックスのコーヒー、というイメージがあります。しかし例えば、韓国映画は、あまりグローバル化のイメージがありません。むしろローカルなイメージです。「多国籍なローカル化」、と表現した方がいいかもしれません。 世界はいま、アメリカ文化を中心とするグローバル化を相対化しているのかもしれません。そして日本人は、日本の映画を見るようになった。これはたんなる文化ナショナリズムではなく、なんと表現すればいいのでしょう。脱グローバル化と呼ぶべきなのか。新たな言葉と分析が必要と思いました。

■ポピュリズムが必然だった理由

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  水島治郎編『アウトサイダー・ポリティクス ポピュリズム時代の民主主義』岩波書店   今井貴子さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。    英国では 2024 年に、久しぶりに労働党の政権が誕生しました (2024.7.-) 。 14 年ぶりです。労働党党首のキア・スターマーが首相になりました。  スターマーは最初に、「脱ポピュリズム宣言」をしたのですね。ポピュリズムによって政治的正統性を獲得しようとする政治家は、労働党内にもいますし、保守党の政治家のなかにもいます。(新しい政党「リフォーム UK 」は、まさにポピュリズム政党です。)  労働党内では、ジェレミー・コービンが代表的なポピュリストです。コービンは、 2015 年から 2020 年まで、イギリス労働党の党首を務めました。急進的な左派であり、反緊縮財政や、一方的な核廃絶を掲げ、あるいはまた、郵便などの基幹産業を国有化することや、富裕層への課税強化などを掲げました。  コービンが労働党の党首に選ばれた背景には、党首選のルール変更がありました。それ以前は、労働党内のグループごとに、党首の選出権を割り振っていました。しかし 2014 年からは、一般の党員だけでなく、加盟団体のサポーターや、登録サポーター (3 ポンド支払えば、だれでもサポーターになれる。ただしこの制度は 2021 年に廃止された ) も、一人一票を投じることができるようになりました。  この制度の下で、党員やサポーターから  絶大な支持を得たコービンは、 2019 年の選挙で惨敗してしまいます。その理由は、いろいろ分析されています。大きな理由は、急進的な経済政策をとったからではなく、むしろコービンに対する人々の評価が変化したことにあったようですね。  英国では、労働党だけでなく、保守党も、党首の選出を党員一人一票制にしたのですが、そうしなければならない理由は、党員が減少しているからです。なるべく多くの党員を得たい、そして政治的な影響力を維持したい。そのような政党の関心からすれば、党員一人一票制は、必要です。一人一票制のもとで、ポピュリズムによって政党を再生することは、残された選択肢のなかで、最も有望な選択肢だったのです。  しかし現代の労働党や保守党は、脱ポピュリズム...

■言いっぱなし、聞きっぱなしでいい

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  横道誠/だいまりこ『空気が読めない大学教員と自己嫌悪の YouTuber はみずからのコミュニケーション困難にどう向き合ってきたか チームワークが苦手な人へ』翔泳社   だいまりこさま、ご恵存賜り、ありがとうございました。    本書は、東京中延の隣町珈琲で、全六回にわたって開催されたトークイベントの内容をまとめたものですね。楽しく読みました。 イベントでは毎回、二人のトークに加えて、参加者の方々の質問に答えるコーナーがあります。イベント全体のテーマは、コミュニケーションの困難です。 例えば、コミュニケーションの困難を克服するための、自助グループがあります。自助グループでは、「アノニマス系」という組織の作り方があります。アノニマス系とは、ある特定の人が権威的な存在にならないように、他人の言ったことに対して、「同調」したり「反発」したりせずに、「言いっぱなし、聞きっぱなし」にするのですね。 もし誰かの発言に誰かが応答すると、そこに是認 / 否認の関係が生まれてしまう。これはミクロな次元で、権威が発生する場面です。そのようなミクロな権威の作用を、完全に避けようというのですね。言葉によって、誰かを魅了したり非難したりする人間関係を、いっさい生まないようにするのだと。  このやり方のいいところは、それまで話すのが苦手だった人が、すらすら話すことができるようになる点です。自分で自分のことを口に出して、それで自己認識を新たにすることができます。このようなアノニマス系のコミュニケーションは、日常生活においても示唆的です。  別のトピックで、例えば SNS で一回しか会ったことのない人から、ダイレクトメッセージがたくさん送られてくることがあります。これをブロックしていいかどうか、という問題が論じられています。その答えは、ブロックしていいと。そして「来世ではご縁がありますように」とお祈りする。これが横道さんの提案なのですね。とても豊かな考え方だと思いました。  他者とのコミュニケーションは、困難ばかり。すべて誠実に対応していたら、自分のなすべきことができません。そういうジレンマに陥ったときに、どんなコミュニケーションをすればいいのか。それは、他人に承認や是認を求めずに、言いたいことを口にする。そういう一方通行...