■スマホに時間を取られすぎると

 

ヨハン・ハリ『奪われた集中力 もう一度じっくり考えるための方法』福井昌子訳、作品社

 

 この本は、世界で100万部のベストセラーであり、韓国で25万部のベストセラーなのですね。日本でも売れているでしょうか。それほど読みやすいわけではなく、筆者が自分の体験談を語る部分が多くて、しかも、それなりの分量です。

 売れる理由はおそらく、世界では多くの人たちが、スマホやPCに時間をとられすぎていて、人生の満足度が低いという事実にあるのでしょう。

 人々はネット漬けで、集中力がなくなってきた。人生をじっくり考えなくなったのだと。

 平均的な米国人は、毎日、スマホを3時間15分、いじっています。これは長いでしょうか。スマホだけでなく、パソコンも使うでしょうから、全体で考えたいですね。

別の調査では、米国人は毎日、5.4時間、スマホをいじっている、という報告もあります。

 1986年の段階では、スマホはありませんでした。パソコンはありましたが、インターネットはありませんでした。その頃の人々は、テレビ、ラジオ、読書、新聞などで、情報を摂取していました。その情報量を新聞に換算すると、毎日40紙の情報を摂取していたことになります。

 同様の計算方法で、2007年の人々は、どれだけの情報を摂取していたのでしょうか。調査によると、新聞換算で、174紙になるというのですね。これは四倍以上です。すると2025年の現代人は、もっと情報を摂取しているでしょう。

 その一方で、現代においては、スマホで随時メッセージを受け取っていると、成績が悪くなる、という結果も報告されています。

睡眠時間は、この100年で20%も減っています。肉体労働をしなくなった分だけ、現代人は睡眠時間を減らすことができるのかもしれません。しかし睡眠時間の減少は、集中力を削いでいるのかもしれません。


 現在、約57%の米国人は、一年間に一冊も本を読まないそうです。2008年から2016年にかけて、米国の小説市場は、40%も縮小したといいます。これもまた、現代人の集中力の欠如を示すデータかもしれません。

 この本から得られる教訓は、スマホをいじらないで、読書量と睡眠時間をともに増やし、集中力を取り戻すことです。しかしそれにしても、情報量が多すぎて、集中力がなくなるというのは恐ろしい。今後、AIが発達すれば、集中力のない人はもっと増えるかもしれません。すると人類はどうなるのか。問題提起の書です。



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