■ポピュリズムが必然だった理由

 


水島治郎編『アウトサイダー・ポリティクス ポピュリズム時代の民主主義』岩波書店

 

今井貴子さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 英国では2024年に、久しぶりに労働党の政権が誕生しました(2024.7.-)14年ぶりです。労働党党首のキア・スターマーが首相になりました。

 スターマーは最初に、「脱ポピュリズム宣言」をしたのですね。ポピュリズムによって政治的正統性を獲得しようとする政治家は、労働党内にもいますし、保守党の政治家のなかにもいます。(新しい政党「リフォームUK」は、まさにポピュリズム政党です。)

 労働党内では、ジェレミー・コービンが代表的なポピュリストです。コービンは、2015年から2020年まで、イギリス労働党の党首を務めました。急進的な左派であり、反緊縮財政や、一方的な核廃絶を掲げ、あるいはまた、郵便などの基幹産業を国有化することや、富裕層への課税強化などを掲げました。

 コービンが労働党の党首に選ばれた背景には、党首選のルール変更がありました。それ以前は、労働党内のグループごとに、党首の選出権を割り振っていました。しかし2014年からは、一般の党員だけでなく、加盟団体のサポーターや、登録サポーター(3ポンド支払えば、だれでもサポーターになれる。ただしこの制度は2021年に廃止された)も、一人一票を投じることができるようになりました。

 この制度の下で、党員やサポーターから絶大な支持を得たコービンは、2019年の選挙で惨敗してしまいます。その理由は、いろいろ分析されています。大きな理由は、急進的な経済政策をとったからではなく、むしろコービンに対する人々の評価が変化したことにあったようですね。

 英国では、労働党だけでなく、保守党も、党首の選出を党員一人一票制にしたのですが、そうしなければならない理由は、党員が減少しているからです。なるべく多くの党員を得たい、そして政治的な影響力を維持したい。そのような政党の関心からすれば、党員一人一票制は、必要です。一人一票制のもとで、ポピュリズムによって政党を再生することは、残された選択肢のなかで、最も有望な選択肢だったのです。

 しかし現代の労働党や保守党は、脱ポピュリズムを目指しています。ポピュリズムの台頭によって、政治の質が劣化するからでしょう。ではどうやって政党の勢力を再生するのか。難しい局面にさしかかっているようです。


このブログの人気の投稿

■「天」と「神」の違いについて

■リベラルな社会運動とは

■ネオリベラリズムは最大の経済思想