■経済社会学の新しい教科書だが

 


マーク・グラノヴェッター『社会と経済』渡辺深訳、ミネルヴァ書房

渡辺深さま、ミネルヴァ書房さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 20世紀後半から21世紀にかけて、経済社会学の中心人物は、スウェドバークからグラノヴェッターへとバトンタッチしました。本書は、現代を代表するグラノヴェッターの主著にあたります。タイトルも、ウェーバーの『経済と社会』を意識して、これを反転させた『社会と経済』になっています。

とても期待して読んだのですが、しかし結論からいうと、期待はずれでした。あまりおすすめできません。書評しようと思ったのですが、結局しませんでした。

グラノヴェッターは本書で、この分野の主要な研究をサーベイして、まとめています。しかしそのまとめ方は、メモをつなぎ合わせたような感じで、じっくり理論的なことを考えるとか、包括的な枠組みに位置づけるとか、読みやすいように叙述を構成するとか、そうした理論家として必要な力を示していません。

むろん、グラノヴェッターの研究がすぐれているのは、本書の訳者解説でまとめられているように、「弱い紐帯の力」という理論を作った点です。親しい友人ではなく、あまり会うことはないけれども、分野は違うけれども、「よい知り合い」がいる人は、「弱い紐帯が強い」といえます。そういう弱い紐帯の豊富な人は、たとえば失業したときに、いろいろ役立つ情報を提供してもらえるので、よい会社に再就職することができる。

ポランニーは、近代の市場社会が「脱埋め込み」の作用をもつことを批判的に捉えましたが、グラノヴェッターは、近代の市場社会にも、人間は「弱い紐帯」に埋め込まれている、と論じたわけです。これは新しい視点であり、経済社会学のものの見方を豊かにしたと思います。この「弱い紐帯」がもつ規範的な意義について、私たちはこれから論じていく必要があるのと思います。しかし言えることは、グラノヴェッターは、決して体系的な思想家ではない。これは現代の社会科学において、論文ベースの業績が評価され、体系的な理論を構築することがまったく軽視されているためではないか、とも感じました。

 


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