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12月, 2025の投稿を表示しています

■今年聴いた音楽5選(2025)

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   年の瀬が迫ってまいりました。 皆様、いかがおすごしでしょうか。  最近になって気づいたのですが、私はすでに、ミッシェル・フーコーより長生きしています。これはどういうことでしょう。愕然としてしまいます。 フーコーは 57 歳と数カ月で逝去されました。ウェーバーは 56 歳で逝去されました。私はこの二人の巨人よりも長生きしているというのは、耐え難い事実です。  那須耕介さんが亡くなられてからも、すでに 4 年と3か月が経ちました。そしていま、私の音楽の趣味は、那須さんの趣味にしばられているようです。「これは那須さんが聴きそうな曲だな。だからもっと聴きこむことにしよう」という具合に、私の聴覚が動いてしまいます。テイストの影響というのは、恐ろしいですね。  *  今年、私が YouTube や Spotify で出会った音楽のリストをご紹介します。 100 曲くらいです。   https://music.youtube.com/playlist?list=PLFExZbc_M4ZMX8xqEzzjgowGuxeoPgjqS    昨年も触れましたが、私はだんだんクラシック音楽を聴くようになりました。今年は 40 年ぶりに、スピーカーを買い替えたということもあります。しかしオーディオの機材よりもなによりも、心地よいと思う音楽そのものが変化していくのですね。変わらないのは、作曲家の創作エネルギーに刺激を受けたい、という傾向のみです。創作するという観点から、今年印象に残った音楽を5点、挙げてみます。順不同です。   ■エドゥアルド・キプルスキー「平和への祈り~歌曲集」 https://music.youtube.com/watch?v=yrAeH2OJf-A ロシア生まれで、現在はウィーンで活躍している作曲家・ピアニストです (1986-) 。これまでピアニストとして、さまざまなアルバムを出してきましたが、このアルバムは作曲がすばらしい。   ■ Robin Verheyen / Robyn Schulkowsky / Goeyvaerts String Trio,“Jakob's Mirror” https://music.youtube.com/watch...

■プルードンは反ユダヤ主義者だった

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フランシス・デュピュイ = デリ、トマス・デリ『アナーキーのこと』 片岡大右 訳、作品社    作品社、編集部さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。    本書の「訳者あとがき」(片岡大右)で、ジェームズ・スコット著『実践 日々のアナキズムーー世界に抗う土着の秩序の作り方』(岩波書店、 2017 年、原著は 2012 年刊)が紹介されています。このスコットの本は、国家(リヴァイアサン)の必要性を認めながらも、アナキズムというものが、私たちの思考と日々の生活を大いに活気づけるものだ、と主張しているのですね。 アナキズムというと、反国家体制の思想と思われがちですが、そのような思想にも、万歳三唱とはいかないけれども、万歳「二唱」までは賛同しうる。いわば「方法としてのアナキズム」を、日常生活と日々の思考に取り入れることができる、というわけですね。  本書『アナーキーのこと』は、父と子の会話というスタイルで、アナキズムの関する諸々の疑問に、ストレートに答えを出しています。 アナキズムの醍醐味、そして、アナキズムの危うい欠点を、それぞれ理解することができます。  最も衝撃的だったのは、プルードンが反ユダヤ主義者だったことです。プルーンは『手帳』で、ユダヤ人は消滅すべきだ、と書いています。    この人種に反対する論文を書くこと、この人種は万事を毒に塗〔まみ〕れさせ、あらゆる国に入り込みながらどの人民とも決してひとつにならない。 [ … ] フランスの助成と結婚した者を除き、この人種をフランスから追放するようにもとめること [ … ] 。ユダヤ人は人類の敵である。この人種をアジアに追い出してしまうか、さもなければ絶滅させなければならない。 [ … ] 火器を用いるのか融合させるのか、それとも追放か、いずれにせよユダヤ人は消滅する必要がある……。 [ … ] 熟慮のうえで、最終的な結論として、わたしはユダヤ人を憎んでいる。ユダヤ人への憎しみは、イギリス人への憎しみと同様、我々の政治的信念の一条項をなす。(以上、 95 頁の引用文を再掲)    このような憎悪が、アナキストのプルードンによって書かれたという事実を、私たちはどう受け止めたらよいでしょう。深刻な問題です。

■トランプが生み出した思想家たち

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  井上弘貴『アメリカの新右翼 トランプを生み出した思想家たち』新潮社 井上弘貴さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。  トランプ政権は、なぜとんでもないのか。関税の引き上げ、炭素の排出による地球温暖化の否定、移民の排斥、エリート大学に対する批判、等々。こうした動きの背後には、どんなイデオロギーがあるのか。そして米国のどんな苦悩やジレンマがあるのか。本書は、深く掘り下げています。  本書の「あとがき」に書かれていますが、本書の副題「トランプを生み出した思想家たち」というのは、実は言いたいことと違うのですね。トランプ大統領の背後に、すぐれた思想家がいたわけではない。むしろトランプのおかげで、小さな思想家たちにスポットライトが当たった。だから「トランプが生み出した思想家たち」という副題の方が、本書の内容を適切に表している、というのですね。  デリック・ベルは、 1971 年に、ハーバード・ロースクールで終身在職権を得た最初のアフリカ系教授です。彼は 1980 年に、雑誌『ハーバード・ローレヴュー』に、「ブラウン対教育委員会事件と利益集約のジレンマ」という論考を寄せました。米国の公立学校では、人種隔離政策は、 1954 年以降、違憲とされてきました。しかし 1980 年になっても、実際には黒人の子どもたちは劣位に置かれています (50) 。  これをどうすれば改善できるのか。司法には限界がある。司法によって「違憲」と判決するだけでなく、何らかの「立法」を通じて、黒人の劣位を克服するための政策を導入する必要がある。ではどんな政策が必要なのか。  ベルの提案は、「黒人のみからなるモデル学校を新設しよう」、あるいは「既存の学校をそのようなモデル校にしよう」、というものだったのですね。これは学校選択の自由を徹底して、人種間の混淆を進めようとする M ・フリードマンの考えとは異なります。保守主義的な発想で、黒人の地位を上昇させようというのですね。  もう一つ、黒人が米国ナショナリズムにコミットする場合の黒人の歴史観に、興味を抱きました。黒人は米国で、奴隷の身分から、市民の身分を手に入れます。その歴史的承認の物語を大切にする。そのような歴史認識が、米国に対する黒人の忠誠心を養うのですね。このような観点から歴史を振り返ると、黒人にとって重要な...

■持続可能な消費のガイドが必要だ

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藤原なつみ『サステナビリティの隘路 「持続可能な消費」の実現はなぜ難しいのか』新泉社   藤原なつみさま、ご恵存賜り、ありがとうございました。   まさにいま必要な研究であります。新しい研究を模索して拓いたと思います。そのフロンティア精神に、心から敬意を払います。 持続可能な消費は、いかにして可能かという問いは、ストレートな問題意識ですね。ところがこの問題に応えてくれる先行研究は、ほとんどないのですね。これが問題です。 本書は持続可能な消費を論じるために、「理論」として、「実践理論」を基礎に据えています。これは適切な選択であります。また、アンケート調査や、インタビュー調査によって、人々の環境意識を明らかにしています。 中心的な問題は、環境意識を高く持って、持続可能な消費行動をすることが難しい場合に、どうやって持続可能な消費を実現していくのかです。 この問題に応えるためには、弱い個人が、ある種のナッジに基づいて、あまり意識に負担をかけずに行動するとか、あるいは、環境問題に詳しいリーダーに追従して、フォロワーになる。例えば生活協同組合に加入して、組合の提案する消費を実践する。このような消費行動を組織化することで、持続可能な消費を実現していくことができるでしょう。 生活協同組合のような中間集団は、持続可能な消費のリーダーとして、重要な社会的役割を求められていますね。 本書は、「サステナビリティ迷子」という言葉を提案しています。私たちの実感を表すいい言葉だと思いました。私たちはどのようにすれば、持続可能な消費について迷わなくて済むのか。情報、考える時間、環境問題についての理解の欠如(その能力の限界)、地図そのものの欠如、などの要因があり、これらをすべて克服することが必要です。  大きな問題は、「これが持続可能な消費だ」と言えるような、消費に関するガイドや地図がないことでしょう。しかしそれでも、生活協同組合のような中間集団は、環境問題に立ち向かっています。私たちはその取り組みに希望を見出して、消費の問題を考えていくことができます。本書は悲観することなく、希望を語っています。ここからどうすべきか。橋頭保となる研究です。