■体制に寄生する企業家たちをどうすべきか


吉田昌幸『企業家像の経済思想』専修大学出版局

 

吉田昌幸さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 企業家精神論の系譜学です。このテーマで、考えられるかぎり、最善の成果を出していると思います。枝葉の議論をうまく退けて、メインの系譜を浮かび上がらせています。十分な時間をかけて練られた構成と内容になっていて、初学者にもわかりやすく説明する工夫が随所にあり、全体の枠組みが骨太に構成されています。

とくに新自由主義的な視点が、この研究の一つの重要な柱になっていると思いました。とくに言及されてはいませんが、ドイツのオルドー学派的な、競争秩序の観点です。

 それはカーズナーとボーモルの比較です。オルドー学派とは直接関係ありませんが、競争秩序の観点から、この二人に関する議論を興味深く読みました。

 企業家の役割と機能とは、いったい何か。この問題を考えるときに、プロ野球の選手と比較する、というのは面白いですね。プロ野球選手の「気質」は、「負けず嫌い」である。その「活動内容」は、「打つ、走る、捕る、投げる」などである。そしてその「システムにおける役割・機能」は、「打者、走者、内野手、外野手、捕手、投手」などである。

 同様に、企業家の「気質」は、「進取の気性、好奇心、抜け目なさ」などである。その「活動内容」は、「起業、イノベーション、金儲け」などである。では、企業家が経済システムにおいて果たす役割と機能は、何でしょう。実は、この問題に応えるためには、経済システムについての一定の思想ビジョンがないと、答えられないのですね。学説史を振り返ると、さまざまな論者が、さまざまなビジョンのなかに企業家を位置づけて、企業家の役割と機能を位置づけてきたのですね。

 カーズナーの企業家論は、これまであまり重視されなかったのですが、本書では、その含意をさらに引き出して展開しています。(57頁の図2-3参照。)カーズナーの企業家精神は、不確実性の問題を避けて、価格の差をたまたま「hunch(直感)」によって発見するという、その能力とその成果によって、企業家の価格調整機能を位置づけます。本書はさらに、カーズナー的な企業家精神によって、新たな(潜在的だった)サービスや能力が発見される、ということに注目して理論を展開しています。

 ボーモルの企業家論で興味深いのは、12-13世紀のフランスと南部イングランドで、シトー派の大修道院が発揮した企業家精神を扱っている点です(170-)。彼らは企業家精神を発揮して、水車に投資して生産性を上げます。しかし同時に、水車から得られる利益を独占して、水車という画期的な生産手段が、他のセクターに用いられないように阻止するのですね。政治的・法的に阻止するのだと。

これは、当時の政治体制に「寄生」して、十分に革新的な活動をしていないのだ、その意味で十分に企業家精神を発揮していないのだ、と思われるかもしれませんが、ボーモルの理論では、いや、現行の政治体制に寄生する行為も、十分に企業家精神を発揮している(利潤を最大化している)、とみなされます。

 では寄生的な企業家を、もっと革新的にするためには、どうすればいいか。政治体制を変えなければなりません。ではどのような体制、どのようなルールが、企業家を最も革新的にするのでしょう。この問いはまさに、オルドー学派的な問いです。

 しかしオルドー学派を超えて、たんに競争秩序を最適化するのではなく、経済のダイナミックな進化を促すためには、どんな制度が必要か。これが根本的な問いですね。イノベーションを推進するための制度とはどのようなものか。例えば、現在の科研費システムは、研究者に対して競争的資金を配分するようにデザインさせていますが、日本の学術的貢献は、どんどんランクが下がっている。大学での研究を革新的にする方法について、私たちは本当のところ、本質的なことが分かっていないのかもしれません。

 ですが、この問いにチャレンジすることは重要です。本書はこの問いに向けて、企業家精神論の成果を整理しており、見通しのよい内容になっています。

 


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