■民主主義は不可能、されど民主主義を支持する
小峯敦編『テキストマイニングから読み解く経済学史』ナカニシヤ出版 斉藤尚さま、ご恵存賜りありがとうございました。 テキストマイニングのアプリケーション・ソフトを用いると、ある本のなかで、あるいはさまざまな媒体のテキストのなかで、どんな言葉が多用されたのか、またどの言葉とどの言葉のあいだの距離が近いのか(関係性が密接なのか)について、データ分析をすることができるのですね。このアプリを用いて、言葉の頻度や関係性の歴史をたどることは、意義がありますね。例えば「豊かさ」という言葉が、いつ頃から使われ、いつ頃から使われなくなったのか。またこの言葉が、他のどんな言葉といっしょに使われていたのか。その変遷について検討してみると、社会の変化が見えてくるでしょう。 今回、ケネス・アローの見解の変化について、テキストマイニングで調べてみたということですが、こうした量的な分析は、結果として、アローの見解の質的の変化を証明することには向いていないようですね。 アローは、自らの社会的選択理論において、民主主義の不可能性を証明したにもかかわらず、その当時から独裁には反対で、社会的選択理論に基づく民主的な決定に、思想的には賛成していました。ということは、民主主義に対する「理論的な否定」と「思想的な肯定」が、同居していたことになります。それがなぜなのかが、まず不可解です。 いずれにせよ、アローはしだいにロールズ流の考え方を思想的に受け入れるようになります。それはアローのなかで、理論的な探究の結果としてそのように変化したのか。こうしたことを検討するには、テキストマイニングには限界があるでしょうが、興味深いテーマであります。