■麻薬を合法化できる理由

 




 

ヨハン・ハリ『麻薬と人間 100年の物語』福井昌子訳、作品社

 

福井昌子様、作品社様、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 本書は、ニューヨークタイムズ集計の「年間ベストセラー」で、宣伝によれば、ノーム・チョムスキーは「読み終えるまで、本から手を離すことができなかった」ということです。チョムスキーを唸らせるとは、インパクトありますね。かく言う私も、麻薬に対する見方を変えなければならないと思いました。

 「お酒の自由」と「性表現の自由」は、これまでリベラルな陣営が勝ち取ってきた政治的成果です。お酒の自由は、経済的自由主義(リバタリアニズム)によって支持される一方、性表現の自由は、政治的自由主義によって支持されてきました。それぞれ異なる自由主義による支持ですが、広い意味では自由主義による支持です。

 そしてまた、「麻薬」や「カジノ」も、経済的自由主義によって支持しうるでしょう。しかしこれに対して、政治的自由主義の立場は、この問題に対してあまり寛容ではなかったように思います。一つには、麻薬やカジノは、人間の自律を奪うようにみえるからでしょう。市民的な判断力を形成するための営みとは言えないからでしょう。

 しかし本書を読むと、麻薬やカジノは、政治的自由主義の観点からも、寛容という理念に照らして合法化してよいのではないかと思いました。

 まず、麻薬の接種で死ぬ人は、ほとんどいないのですね。麻薬を禁止した場合、その抗争で死ぬ人がいます。つまり、警察が取り締まりを強化すればするほど、死者が出るのであり、反対に、取り締まらなければ死者はほとんど出ない、というわけですね。

 それから、麻薬のような陶酔性のあるものは、人間だけでなく、他の動物も摂取していることが分かってきたのですね。人間の場合、麻薬で依存症なる人は1割程度で、しかも依存症になる原因は、麻薬そのものというよりも、その人の精神状態にあるようです。例えば、生きる目的が見つからず、内面的な空虚さを抱えると、麻薬に依存してしまうわけですね。ということは、人生の空虚さこそ、社会的に解決しなければならないですね。

麻薬を取り締まると、かえってギャングに資金が流れ、殺人も増える。ならば麻薬を取り締まらないで、内面的な空虚さを抱えている人たちに、自尊心の基盤を提供するための政策を打っていった方が、望ましいでしょう。

「世界で一番貧しい大統領」として知られたウルグアイ大統領のホセ・ムヒカは、麻薬を合法化しました。米国のコロラド州やワシントン州も、麻薬を合法化しました。コロラド州では、麻薬は酒よりも安全で健康的だから、という理由で合法化されました。ワシントン州では、麻薬の禁止することの弊害が強調されました。

 日本でもいずれ、麻薬を合法化してもよいかもしれません。その是非をめぐって有効な実証研究を広く蓄積していく必要があると思います。

 


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