■公共サービスに民間の知恵を取り入れる

 


ベン・グリーン『スマート・イナフ・シティ』中村健太郎/酒井康史訳、人文書院


人文書院さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

2016年に、ニューヨーク市は数千台の公衆電話をデジタル・キオスクに置き換えました。公衆無料wi-fi、無料国内通話機能、USB充電ポート、インタラクティブな電子地図などを備えています。

しかしこのサービスを提供しているのは、アルファベット社の子会社であるサイドウォーク・ラボ。サービスを利用するすべての人のデータを収集し、ターゲティング広告を作成することで利益を上げようとしています。このサービスを利用するためには、民間企業に位置情報その他の個人情報を売らなければなりません(15)。これは公共性の観点からみて、許されるのでしょうか。例えばもし、他の会社も類似のサービスを提供することで、サービスの競争環境を構築することができるなら、認めてもよいのかもしれません。しかしそのような制度作りは、かなり大変でしょう。

 2013年、米国ウィスコンシン州ラクロス市で、銃撃事件に巻き込まれた車を運転していたとされる人物、エリック・ルーミスが、有罪判決を受けました。そのとき、州は、Northpointe社のCOMPASSアルゴリズムを使って、この裁判の過程に情報提供をしました。裁判官は禁固6年の判決を言い渡すのですが、その際、次のように述べました。「リスク評価ツールは、あなたが再販を侵すリスクが極めて高いと判断しています」と。しかしこのリスク評価システムのアルゴリズムは企業秘密であるため、これを評価することは許されません。エリックは異議申し立てを行いましたが、認められませんでした(115)

 これはまさにカフカの世界ですね。このようなアルゴリズムを用いてよいのかどうか。大きな問題です。公開できるアルゴリズムであれば、批判的に検討する余地が生まれるでしょうけれども。

 19世紀の終わりから20世紀にかけて、ドイツでは林業の生産性を高めるために、森林を合理的に管理するというプロジェクトがありました。官僚たちは、木材の生産量を最大化すべく、さまざまな科学的方法を駆使しました。新たな木を列状に整然と植えるとか、樹木をより大きく早く成長させる、といった方法です。最初は生産性が増大するのですが、100年が過ぎると生産量が激減します。科学的な管理が生態系を破壊し、森林資源を枯渇させていった、という例です。この問題については、James C. ScottSeeing like a Stateが参考になる、というのですね(213)

 まず科学的に計測する。次に科学的に管理する。そしてこれを強化する。これをハイモダニズムのイデオロギーと表現するようですが、科学主義と呼んでもいいですね。複雑なものを捉えることができない、浅はかな合理主義です。しかし私たちはこれを「高度な近代化」であるとみなしてきたわけであり、近代とはつまり、人類の最高の知恵を絞ってもなお浅はかであるような時代であり、またそのイデオロギーだということになるでしょう。

 スマート・シティをデザインするさいにも、やはりこうした教訓が重要になるというわけですね。

 


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