■自殺願望が生きる願望に反転する

 


 

代真理子『91日の君へ 明日を迎えるためのメッセージ』教育評論社

 

代真理子さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 初の著作の刊行、おめでとうございます! 一読して、これはすばらしい本だなと思いました。他の本と熱量が違うと思います。

 91日は、新学期の初日である地域が多く、その日に自殺する生徒が、年間で最も多くなる日でもあるのですね。でも、自殺してはいけない。自殺したいと思う悩みに、どうやって寄り添うのか。これが本書のテーマです。代さんと、それから、本書に寄稿されたり対談されたりした大人たちが、真剣に応えています。どれも珠玉の文章です。

 本書の寄稿者と対談者たちは、自殺についての専門家ではありません。でも一度は自殺したいと思って、人生の困難な時期を経験したのだと思います。みなさん、どうして自殺しなかったのか。いろいろな道のりがあるのでしょうけれども、いずれにせよ、いま活躍している多くの魅力的な大人たちは、一度、心の中で自殺しているのではないか、と改めて思いました。

 自分はすでに死んでいる、すでに終わっている。そういう深刻な経験をして、そこからエネルギッシュな活動に向かう人たちがいます。とても魅力的な人たちです。ではそうした魅力的な人たちは、どうやって「自殺したい」というネガティブなエネルギーを、ポジティブなものに転換していったのでしょう。そのような経験を、本書はさまざまなに伝えています。

 そして何よりも、代真理子さんが、死にたいという思いを、小学3-4年生のときに、すでに持っていらしたのですね。本書の「はじめに」を読んで、びっくりしました。

また本書の「最後に」で、代真理子さんのこれまでの人生の経験が語られています。小学生のときに、中学受験をして、中高一貫校に入学したのですね。しかし、中学二年生のときに自主退学して、公立の中学校に通うことにしたのですね。それから、高校受験、大学受験・・・そして、その後のエピソードは、衝撃的なことがたくさん。とてもつらい経験を何度もされて、それでいまの代真理子さんの活動があるのですね。

 代真理子さんの「未来に残したい授業」は、YouTubeで、広告収入をまったく入れずに、無料で公開している授業番組です。

https://www.youtube.com/@lessons_for_the_future

中学生以上を対象に、若い人たちに向けて、学びの機会を提供しています。

 この本は、その活動の背後にある、代真理子さんの情熱と魅力を、十分に伝えています。自殺について真剣に考えることは、自分の中にある、まだ誰にもよく分からないエネルギーを、呼び覚ますことがあります。人間は、自分が「無」であると思うことから、反転して、多大なエネルギーを得ることがあります。なぜでしょうか。自分で自分が許せないという(自殺する行為において前提されるはずの)プライドさえなくなったところから、どうやってエネルギーが湧いてくるのでしょう。この本を読んで、そんなことを改めて考えました。そして人生の初心というものがあるとすれば、それはこのような「無価値」の経験ではないか、と思いました。


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