■黒川創さんの那須耕介論
那須美栄子さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
2024年、SUREの最新刊は、三つの討論と一つのインタビューからなる本です。アナキズムという言葉がキーワードになっています。自分たちにとって居心地のいい場所を作るには、どうすればいいのか。それぞれ語り手たちの活動と思想家への参照によって、熱く語られています。
第三章「場所に根ざしたアナキズムを掘り起こす」は、黒川さんがかなりの紙幅を割いて、那須耕介さんについて語っています。アナキズムとの関係はほとんどないですけれども、黒川さんの語りは、那須耕介さんという人間の本質を、さまざまな角度から深くえぐり出した、たぐいまれな人間論になっています。
那須さんは、大学生のときからSUREに参加していました。黒川さんとは、長いお付き合いだったのでしょう。黒川さんは、那須さんのエピソードをいろいろ語っています。
那須さんは、北沢恒彦という人物に惹かれていました。北沢さんの『隠された地図』という本をSUREで編集して出したときに、那須さんはとてもいい本だと言って、私に恵存してくれました。この本については、私は以前、ブログで感想を書いたこともありました。けれどもなぜ、那須さんがこの本とこの著者にこだわりをもったのかについては、今でも分かりません。何か見えない連関があるのでしょう。黒川さんは、次のようなエピソードを紹介しています。
「[北沢]恒彦は中小企業診断士として、京都の町を歩いていた。那須さんは、こうした恒彦が残した膨大な「商業診断報告書」についての解説をいずれやりたいと考えていた。だから、基本的な資料も自分の研究室に預かってくれていた。/那須さんがなくなるちょっと前、京都工業繊維大学の美術工芸資料館が、これらの北沢恒彦の資料を引き受けてくれることになった。那須はそれらの運送まで手伝ってくれた。彼の運転で、研究室からそこに資料を動かした。そうした彼の行動の取り方は、大学教授という職業の常軌から、はみ出すところがあったと思う。」(102)
この北沢さんの資料は、いずれ整理されて、小さな展示が行われるだろう、ということですが、それだけの価値ある資料を北沢さんが作ったのですね。そして那須さんがそれを保管していたというのは、興味深いです。
私たちは、この世界に何を残すことができるのか。私もいろいろ考えます。しかしその一方で、ある人の作品を、もっと整理して保存したいとか、再構成して継承したいという欲求にもかられます。誰かが誰かを継承する。そのような地道なリレーが、私たちの魂をつないでいくのでしょう。黒川さんの那須耕介論に、心温まる思いがしました。