■新自由主義はリベラルな市民社会を促進した?
後房雄/坂本治也編『現代日本の市民社会 サードセクター調査による実証分析』法律文化社
後房雄さま、坂本治也さま、執筆者の皆様、ご恵存賜り、ありがとうございます。
市民団体(サードセクター)といっても、いろいろな種類がある。自発的に作られた団体、行政のすすめや支援によって作られた団体、企業が資金や人材を提供するかたちで作られた団体、先行して存在していた他団体が主導する形で設立された団体、など。本書で示される調査結果から、サードセクターには、「行政のすすめや支援で作られた団体」が多いことが分かります。42頁。
では諸々の市民団体は、政府や都道府県に対して、どのようなアドボカシー運動を行っているのか。それは成功したことがあるのか。こうした質問に対する回答の結果も、興味深いです。
アドボカシーをするレベルとして、「大臣」「中央省庁の課長クラス」「都道府県の幹部」「市町村の幹部」「市町村の課長クラス」という具合に、権力のレベルを分けて質問しています。またそのアドボカシーが、実際に政策や方針をどのように変更させることができたのか。
調査結果によると、「市町村レベルの政策を変えることができた団体」は、全体の10%強に留まる、というのですね。
またアドボカシーという場合、実際の接触や会見を行うのか、審議会へ参加するのか、署名運動をするのか、集会へ参加するのか、ウェブサイトでアピールするのか。こうしたパタンの違いによって、「啓蒙型」「動員型」「自治体接触型」「国政接触型」に分けて分析している点も興味深いです。(以上は第四章。)
加えて第九章では、サードセクター組織のイデオロギー傾向の分布が、四象限の図に示されています。なるほど、と思いました。
これをみると、「非保守的」で「非ナショナリズム的」な、いわゆるリベラル・イデオロギーを代表するサードセクターは、「認定特定非営利活動法人」「消費生活協同組合」「特定非営利活動法人」の三つの種類なのですね。こうしたサードセクターを、新自由主義的な規制緩和政策によって促進するということが近年の傾向でしたが、この点を取り出してみると、新自由主義とリベラルな市民社会の興隆は、じつは両立する現象であったことに気づきます。
第13章を読むと、既存の保守的なサードセクターへの加入率は、大雑把に言って、しだいに減少傾向にありますが、他方で市民団体やNPOなのへの加入率は上昇しており、これは全体として、サードセクターのリベラル化の傾向を示しているようにみえます。と同時に、こうした諸団体のいずれにも加入していない人の割合も、高まっていますね。これはつまり、中間集団に所属しない、孤立的な個人が増えているということですね。