■正義論の教科書



宇佐美誠/児玉聡/井上彰/松本雅和『正義論 ベーシックスからフロンティアまで』法律文化社

宇佐美誠さま、児玉聡さま、井上彰さま、松本雅和さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

統一的な教科書として、内容豊かです。

1999年に、アメリカとヨーロッパ諸国の軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)の軍隊は、旧ユーゴスラビアのセルビアのコソボ自治体で起きていたアルバニア系住民に対する人権侵害を阻止するために、国連の承認を経ないまま、セルビアに対して空爆を行いました。

当時は、中国とロシアが反対したので、国連としては軍事介入を承認することができませんでした。しかし人権を侵害する事態に対して軍事介入することは、正統な戦争と言えるでしょうか。

国連が下す価値判断よりも、上位の価値の審級として、「人権」という普遍的な価値を掲げて、その価値に基づいて国際的な軍事介入を正当化することができます。これはしかし、おそらく二つの点で、困難に直面します。

一つには、たとえばNATO軍は、「人権を守る」という同じ理由で、中国やロシア、あるいは香港に対して、国連の承認を得ずに軍事介入することができるでしょうか。コソボは十分に小さな地域であったからこそ、介入を正当化できたに過ぎないのではないでしょうか。

もう一つには、これはまさに現実に起きていることですが、もしアメリカが普遍的な人権を重視しない立場に立つなら、ヨーロッパの軍隊は、独自の判断でコソボのような紛争地域に介入することができるでしょうか。そしてまた日本は、アメリカが普遍的な価値(人権)を重視しない立場に立つときに、普遍的な価値のためにヨーロッパの諸国と協力して、軍事的介入を支持すべきでしょうか。

 普遍的な正義は、それが実効的な場合に遂行することができる。しかしそれが難しい場合には、理念的な要求として現れる。問題はその中間あたりの事態に直面した時に、正義の理念が真に争われることになるのでしょう。


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