■思い入れのある経済学史研究
松山直樹さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
メアリー・ぺイリー・マーシャル(1850-1944)は、夫であり経済学者のアルフレッド・マーシャルとの共著『産業経済学』(1879)で知られます。
また彼女は、ケンブリッジ大学のウィリアム・ペイリーのひ孫で、1871年にケンブリッジ大学の一般入学者能力検定試験に合格しました。1875年より、ニューナム・カレッジの経済学講師を務め、1877年に、アルフレッドと結婚します。その後も、ブリストルやオックスフォードで教鞭をとりました。
本書は、メアリーの回想録であり、正確には、最初の三分の二が回想録の翻訳で、残りの三分の一は、舩木恵子さんと近藤真司さんによるそれぞれの解説と、訳者あとがき、人物一覧、年譜から成り立っています。つまり本書は、メアリーについて丹念に調べた、経済学史の研究書でもあります。
訳者の松山さんが撮影した、現地の写真も多数含まれています。とても思い入れのある本だと感じました。
メアリーは、女性としてはじめて、ケンブリッジ大学のニューナム・カレッジの道徳科学(現在の「社会科学」に相当する分野)の試験に挑戦し、卒業後、同カレッジで経済学を教えます。ケンブリッジで経済学を教えた、はじめての女性講師であります。
しかし、ケンブリッジ大学が女性の学位取得を認めたのは、1947年。戦後のことです。女性の参政権よりも後に認められたのですね。これは大学という組織が、イギリスでは進歩主義的な領域ではなく、社会全体よりも保守的で、政府によってコントロールできていなかったことを示しているようにみえなす。イギリスでは、学問というのはこれほど保守的な環境で営まれてきたということに、改めて驚きました。
本書掲載の写真で、メアリーが描いた風景画があります。すぐれた才能を示していますね。心の中に残したいです。