■研究者と市民/企業人のコラボで社会変革を
サービスグラントとシノドス国際社会動向研究所の出会いによって結成された「ソーシャルアクションタンク」。
2022年2月3日(木)19:30-22:00、第1期の総括イベント「ソーシャルアクションタンク
シンポジウム2022」をオンラインで行いました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
ソーシャルアクションタンクはこれまで、約2年間の活動をしてきました。
1年目は、さまざまなNPO団体の運営者にオンラインでお話を伺い、市民活動として取り組むべき社会課題を掘り起こしました。
1年目の後半から、次の活動計画についてさまざまに検討し、私たちはそこで、「研究チームによる社会変革=協働研究プロジェクト」というものを企画しました。研究者の方々とNPO法人サービスグラントにご登録いただいているボランティア(市民/企業人)のみなさまをマッチングして、社会変革を促しうるような調査課題に取り組むというものです。ちょうど1年前の2021年2月から、このアイディアを具体化していきました。
研究者とボランティアのチームで社会調査をするというのは、おそらく日本で初めての試みではないかと思います。世界的にみても事例がないかもしれません。これは広い意味での「市民活動」であり、調査を通じて問題を掘り起こし、社会をよりよくするための実践です。
「第1期の協働研究プロジェクト」では、世界的にみて日本が低迷している「ジェンダーギャップ指数」に焦点を当て、とくに女性管理職の少なさに注目しました。女性管理職は、どのような政策や対策によって増えるでしょうか。第1期のプロジェクトでは、「女性が活躍しやすい社会をデザインする」と題して、3人の研究者と、15人のボランティア(プロボノワーカー)の方々に、3つの研究プロジェクトを立ち上げていただきました。以下の通りです。
①
育休や短時間勤務による人事考課への影響とは
大槻奈巳氏/聖心女子大学人間関係学科教授+プロボノチーム
②
女性管理職が受けるセクハラ――実態と特徴
金井郁氏/埼玉大学人文社会科学研究科教授+プロボノチーム
③
日本企業におけるダイバーシティ&インクルージョン
大塚英美氏/神戸学院大学経済学部講師+プロボノチーム
従来、研究者者たちは、社会調査を通じて、社会を変革するための学問的な資料を提供してきました。しかし同時に問題も抱えており、例えば、調査のための人手が足りない、企業人にアンケートを依頼する際の資源が乏しい、学術的な研究を優先し実践的な課題に取り組む余裕がない、などの事態に直面していることもしばしばです。
ソーシャルアクションタンクでは、研究者の皆様とプロボノの市民/企業人の方々でチームを作り、とくに今回、日本の企業が直面している社会的課題、「女性の活躍推進」という問題について取り組みました。
初めての試みであり、あらゆる点で模索が続きましたが、最終的な研究成果はいずれも、私の予想をはるかに超えるすばらしいものでした。大槻奈巳先生、金井郁先生、大塚英美先生、そしてプロボノの参加者の皆様、ありがとうございました。この一年間のご尽力に、心より感謝申し上げます。
研究の成果はいずれも、企業や公的機関において、女性が働きやすい職場を作るためのヒントになるものです。その成果の一部は、以下のホームページで紹介しています。
https://www.socialactiontank.com/
以下に研究の成果を簡単にご紹介します。
大槻奈巳先生のチームは、育休や短時間勤務による人事考課への影響について検討し、有効回答数253名のアンケート調査で、次のような結果を得ました。
(調査概要とその結果について、詳しくは以下のHPをご覧ください。)
https://drive.google.com/file/d/1re5CZwwltjB6FBoiS0EjVQqzncFLzjJN/view
・育児休業や短時間勤務の取得は、キャリアや処遇にマイナスの影響がある。
・育児休業や短時間勤務の取得は、昇進への影響があると答えた人は約7割もいた。
・復帰後に割りあてられた仕事の難易度が低かったり、業務量が減らされたりすると、「ネガティブ」にとらえられる傾向がある。
・女性たちには、ライフスタイルに合わせながら、仕事を意欲的に挑戦したいという姿勢がある。
・労働時間が短い方が評価されると答えた人は5%、長い方が評価されると答えた人は35%という結果になった。
・フルタイム勤務・短時間勤務ともに、復帰後の給与は減額されている。しかも短時間勤務者の方が
減額の幅が大きいという結果が出た。
・フルタイム勤務の約7割、短時間勤務の約8割が、復帰から2年後になっても、育児休業前の月給水準に戻っていない。
等々。
金井郁先生のチームは、ハラスメントに関するアンケート調査項目を作成しました。
(詳しくは以下をご覧ください。)
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1VBpA15bYa87D0IjkN6IB8pYPqu7IXtfg/edit#gid=1320687437
金井先生によれば、アメリカなどではすでにハラスメントに関するアンケート調査がさまざまになされており、企業においても実施されていますが、しかしそのアンケート調査の質問票を日本で用いると、しっくりこないものが多いようです。やはり日本の文脈に応じて日本版をつくらないといけない。しかし現在、日本ではハラスメントに関する有用な質問票がない、という状況です。
そこで金井先生のチームは、日本で初めて、日本の文脈に合わせた総合的な調査票を作りました。「"本調査票は、企業・チームにおけるハラスメントに関する認識の改善や、ハラスメントについて考えるきっかけづくりを目的とし、ハラスメントをめぐる状況について基礎的なデータを得るために設計されたものです。フリーダウンロード・利用者による任意の改変可となっておりますので、ご自由にご活用ください。"」。回答所要時間は約10分です。
日本人の場合、ハラスメントを受けたことがないという認識であっても、この質問票に沿って答えてみると、実はハラスメントがあったという認識に変わるかもしれません。ハラスメントという言葉の定義が、日本人にはまだよく理解されていないようです。
もう一つの問題として、女性の社員がハラスメントを受ける場合、その割合は、女性管理職のほうが多いというショッキングなデータがあるとのことです。どうして地位の高い人の方が、ハラスメントを多く受けるのでしょうか。企業はこの問題を解決しなければ、女性の管理職を増やすことが難しいでしょう。
大塚英美先生のチームは、日本企業におけるダイバーシティ&インクルージョンをめぐって検討し、231名の回答者によるアンケート調査から、さまざまな結果を得ました。
例えば次のような結果です。
・「子供/パートナーがいる女性の方が昇進意欲が低い」ということはない。むしろ意欲が高いといえる。それゆえ上司は、結婚や子育ての配慮を公正にすることが重要である。
・質問項目として、「私の会社では、他の人も
性別に関係なく公正に評価されていると思う」、「私の会社では、社員は性別に関係なく管理職への昇進プロセスが公正に行われている」、「私の会社では、 育児・介護休職取得後、公正に評価をされている」という、以上の三つの質問に対して、女性の方がネガティブに答えている人の割合が多い。三分の一以上の女性は、公正ではないと思っている。
・「会社とは別の組織に所属する機会」を作ると、昇進意欲と幸福感がともに向上するようである。
・管理職になったら、どんな仕事をするのか。あるいはどんな仕事をしたいのか。この現実と理想のあいだに、大きなギャップがあることが分かった。しかし管理職の理想と現実にあまりギャップがない人ほど、昇進意欲がある。では、これはどのように解決すればよいだろうか。
以上、三つのチームの研究成果の一部を簡単にご紹介しました。
ソーシャルアクションタンクでは今後、これらの成果をさまざまに発信していきたいと思っています。大槻奈巳先生、金井郁先生、大塚英美先生、そしてご参加いただいたプロボノのみなさま、今後ともどうぞよろしくお願いします。
また、ソーシャルアクションタンクの運営スタッフの皆様、この場をお借りして、感謝の意を表したいと思います。