■倫理経済の観点から経済思想史を振り返る
ジェイコブ・ソール『〈自由市場〉の世界史 キケロからフリードマンまで』北村京子訳、作品社
作品社編集部さま、ご恵存賜りありがとうございました。
以下、「シノドス・ライブラリー」https://synodos.jp/library/29498/
に寄せた書評を、こちらのブログにも掲載します。
自由市場を擁護する議論は、アダム・スミスよりもはるか以前の古代ローマ時代にもあった。例えば前1世紀を生きたキケロは、自由市場を擁護して農地への課税に反対した。政府が介入して統治するよりも、貴族が農民に節度と美徳をもって対応することが重要と考えた。キケロのこの立場は、現代の文脈では、美徳によって市場経済を統治する「新保守主義」と言えるだろう。
本書は、キケロからフリードマンまでの思想史を、コンパクトにまとめた良書である。とくに興味深いのは、17-18世紀のフランスを生きたボアギュベールの思想だ。彼は農業こそ、自由な市場社会における富の源泉と考えた。農民への減税と、富裕層への増税を訴えた。貧しい人たちの税負担を減らして市場を活性化し、生産的ではないが豊かに暮らしている人には重い税を課して、その富を再分配する。そのような美徳のある政策こそ、自由な市場経済を活性化するとした。
私たちは、「市場経済は不安定だから政府介入が必要になる」と考える必要はない。むしろ「市場経済を活性化するためには、倫理が必要」と発想してはどうだろうか。市場経済の歴史を独自の観点で読み解いた本書は、経済思想の入門書としてもおススメだ。
このように、「倫理経済」「新保守主義」の観点から経済思想史を振り返るというのは、現代の経済思想研究の一つの潮流ですね。