■経済思想のオリジナルな書物



  5月21日、米欧長期金利が乱高下の兆しを見せているなか、安定のためのカギはゼロ金利の期間、すなわち「時間軸」だろう。写真は4月、パリのオルセー美術館の大時計の内側から外の景色を眺める人々(2015年 ロイター/John Schults)


斉藤尚『社会的合意と時間』木鐸社

斉藤尚さま、ご恵存賜りありがとうございました。

ご高著は、私がこれまで読んだ経済思想の書物で、最も哲学的でオリジナルな思索の営みに満ちた本の一冊だと思います。読みながら感動しました。
 いつかしっかりと応答したいと思うのですが、さしあって、次の二つの印象をもちました。
 ベルクソンに依拠すると、憲法制定上の社会契約における人格的基礎だけでなく、その後のさまざまな社会政策においても影響を及ぼし、アローの社会的選択の条件に依拠することがさらにできなくなるのではないか。つまり、厚生主義の議論をさらに制約することになるのではないか、という疑問です。持続としての自由で創造的な行為は、それほど社会のなかに遍在しているのではないかと思われます。
 もう一つは、ベルクソンのいう「開かれた社会」の政治思想的含意を引き出すとすれば、そこには実は、もっと密教的な要素があって、それがある種のグローバルなコミュニタリアニズムを要請するのではないか。そしてその要請は、人格の基底的な承認論をこえた含意をもつのではないか。「愛」とは、そのような要素をもっていないか、という疑問です。
 第一の疑問は、リッツォらの「時間と無知の経済学」のテーマでもあります。第二の疑問は、ポパーのいう「開かれた社会」と、ベルクソンのそれが、規範的にどのような差をもたらすのか、という問いでもあります。

 いずれにせよ経済思想の分野において、このような独創的な研究が日本で生まれたことを、心から祝福したいと思います。

http://www.bokutakusha.com/books/2016/2.html

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