■新しいリベラルの理念としてのベーシック・アセット
宮本太郎『貧困・介護・育児の政治』朝日新聞社出版 宮本太郎さま、ご恵存賜りありがとうございました。 去る土曜日 (6 月 12 日 ) は、シノドス・トークラウンジにご登壇いただき、ありがとうございました。本書の内容の理解が深まりました。 21 世紀に入って、福祉政策をめぐる日本の政治は、どのように動いてきたのか。本書はそれを「例外状況の社会民主主義」「磁力としての新自由主義」「日常的現実としての保守主義」という三つの立場の力学で捉えています。 この説明は、社会がどうあるべきかをめぐる論争の力学というよりも、その都度の現実の政治状況で、政治家や官僚も明確なビジョンがないまま、あれあれという間に何かが決まっていくという現実を、的確にとらえた力学であると思います。社会民主主義の政策は、自民党が主導することになるわけですが、とくに信念をかけて取り組んでいるのではなく、政権をとりたいからという理由で、野党が掲げている政策をとりあえず実行してみる、というような具合で、政治が動いてしまうわけですね。 2009 年前後は、政権交代という例外的な状況で、当時宮本先生が提唱していた積極的労働政策などの新しい社会民主主義的な政策は、予想以上に受け入れられました。 ところが自民党の安倍政権が安定すると、政権を奪われそうになる例外状況がなくなり、積極的労働政策の予算は削減されていきます。この財政の健全化の力学が、本書では新自由主義と呼ばれています。ただこれは、とくに新自由主義的というよりも、財政を担う立場からすれば、赤字をできるだけ削減する努力は、どの立場にとっても必要でしょう。 他方で、家族内での介護(ケア労働)は人々にとって日常的な現実であり、これが深刻な状況になっている。家族的価値を理想とする保守主義の観点からみても、すでに擁護できないレベルまで深刻化しているのですが、これが日常の保守主義ですね。決して理想ではない。「ヤングケアラー」「老々介護」など、保守主義の観点からみても、すでに擁護できない現実があるわけですね。 つまり日本において、社会民主主義の政策は、それを信念として掲げる人たちによって推進されているのではなく、新自由主義の政策もまた、それを信念として掲げる人たちによって推進されているわけではない。そして保守主