■労働という言葉の意味はドイツ語と英語で異なる
星野彰男『アダム・スミスの動態理論』関東学院大学出版会
星野彰男さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
「労働」という言葉は、英語でlabour、ドイツ語でArbeitになりますが、英語とドイツ語で、意味が少し異なるのですね。Labourは、労働力という意味を含みますが、Arbeitはそうではないのだと。
マルクスがスミスを批判したときに、どうもマルクスはこの意味の違いに気づいていなかった。スミスの場合、labourは、労働する主体の側の活動力、という意味になる。ところがマルクスの場合、Arbeitは、活動力という意味は弱い。むしろ労作、つまり労働によって対象化されたもの、という意味になる。英語でworkと言えば、このような対象化されたものという意味を持っているけれども、labourの場合は、このようなニュアンスがないのですね。
この意味の違いは重要ですね。マルクスのスミス批判は、labourとArbeitの意味の違いを、マルクスがしっかり把握していなかったことに基づくというのは興味深いです。
例えば、スミスは、「労働の価値」という言葉を使いますが、マルクスは「価値という言葉は余計であり、無意味である」と批判します。しかしArbeitには「労働の(対象化された)価値」という意味がもともと備わっているけれども、labourには備わっていない、ということですね。