■社会的関係資本を最大化すべきか
石井まこと / 江原慶編『多様化する現代の労働』法律文化社 金子創さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。 第三章、金子創「社会関係資本の格差とネットワークへの参入行動」を興味深く拝読しました。 ゲーム理論の観点からすれば、インフォーマルで互酬的なコミュニケーションにおいても、それが自分にとって納得がいくコミュニケーションなのかどうか。そこには戦略的な駆け引きが生じます。 この駆け引きをめぐっては、進化論的な観点から、自分の行動(ネットワークへの参入)を最適化できるかもしれませんが、その最適化は、自分の利益のために、搾取を受け入れることを意味するかもしれませんね。 社会的関係資本を最大限に形成するという目標に照らして、そのためにはどんな社会的条件が必要なのか。この問題を考えることの難しさは、「富の増大」「フリーライドの許容度合い」「搾取の許容度合い」の三つが、どのように選好されるのか、そしてインセンティヴとなりうるのか、という問題と絡んでくるからでしょう。フリーライドの可能性がある場合には、社会的関係資本が最大限に形成されるように行動することは、難しいですね。 ゲーム理論で設定される各プレーヤーの利得の数値に、これら三つの問題がすべて反映されるとしても、しかし規範理論的には、これら三つの問題を区別して論じたいところです。私たちは、社会的関係資本のようなコモンズを最大化したいのか、それとも富を最大化したいのか、それともフリーライドや搾取のような不公平な関係を最小化したいのか。各プレーヤーは、この問題に対して、異なる選好をもっていると想定しましょう。そして最適な進化論的解答が得られたとしましょう。しかし問題は、最初の段階で、プレーヤーの選好をどのように想定するかですね。そんなことを考えてみました。