■国富増大にむけての河上肇の論点
牧野邦昭「大戦ブームと『貧乏物語』」『大正史講義』ちくま新書、所収 牧野邦昭さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。 河上肇の『貧乏物語』 (1917) は、大正時代の重要書です。河上によれば、当時の日本の富者たちは奢侈品をますます求めるようになり、生産システムが奢侈品の生産に向けられて、必需品があまり生産されなくなった、というのですね。そしてこのことが貧困の原因になったのだと。 この河上の説明は、どこまで正しいのでしょう。争われると思いますが、河上の論点は、日本における貧困のほかに、日本がまだまだ後進国であり、国として貧しいという点にも向けられていました。 1911 年の段階で、日本の「富力」を 100 とすると、イタリア 269 、オーストリア 384 、ロシア 551 、ドイツ 683 、フランス 743 、イギリス 1008 、アメリカ 1397 、となる。この時点で、日本はまだまだ後進国ですね。日本がイギリスの GDP を一人当たり換算で超えるのは 1970 年代のこと。それから約 50 年後のことでした。 富裕層のための奢侈品を作るのではなく、中間層のための必需品を作る。そのような生産の構造が国を豊かにする、というのが河上の議論から導かれる知見であると思いました。