■人生の価値は、生まれた直後から逓減していく

 




 

川瀬貴之『ベルモント・レポートに学ぶ「いのち」の倫理』法律文化社

 

 ベルモント・レポートとは、1979年に米国で、保険教育福祉省の長官官房が発表したレポートです。医学研究の被験者を保護するための、倫理原則を示しています。

 レポートの内容は、現在の視点でみると、バランとの採れたものであり、とくにいま批判すべき点はないようですね。むしろこのレポートをベースにして、医療倫理を考えるということですが、一般に政府が発行するレポートは、さまざまな説のあいだのバランスをとった、ある意味で妥協的な内容になるので、それ自体としては知的な関心をあまりかき立てないでしょう。

 とくに争われる論点が何なのか、それが分かるように書かれていれば、もっと検討する価値があるでしょう。

例えば、30歳の人と50歳の人がいて、どちらか一人を救うことができるとすれば、30歳の人を救うべきだというのは、直感的に正しいように思います。この種の究極的な問題については、意見が分かれるでしょうが、しかし私も川瀬さんと同じ見解で、224頁にあるように、生命の価値は、人生の時間をカウントすることで測るほうがよいと思います。功利主義や帰結主義などにも配慮してバランスを探る、ということですね。

 それから人生の価値は、どの時点で逓減を始めるのか、という問題ですが、おっしゃるように、出生時あるいはその直前から逓減し始める、という考え方は説得的ですね。どうしてそうなのか。普遍化できる理由を見つけることは難しいですが、そのように直感します。これはさらに検討の余地がありますね。

 


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