■ウクライナを侵攻するロシアの世界観

 



 

岩下明裕編『北東アジアの地政治――米中ロのパワーゲームを超えて』北海道大学出版会

 

岩下明裕さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 本書は202111月に刊行されましたが、その後、20222月にロシアのウクライナ侵略が始まりました。

 世界が大きく変動しているこの時期に、本書の所収の加藤美保子先生の論文「ロシアからみた安全保障のアーキテクチャー」を興味深く拝読しました。

 加藤さまはロシア外交の専門家であり、この数年のロシア外交の方針について的確に把握し、説明しています。それによると、まず、ロシアは最近、「世界大国」としての自負を回復しつつある、ということですね。

 ロシアは、安全と経済成長を自前で確保する能力としての「主権」を有しており、そのような主権をもったいくつかの国が「多極的」に世界の秩序を構成している。この場合の多極的世界観とは、いくつかの大国が完全な主権国家として存立し、他の中小国はそれらの完全な主権国家に依存して存在するという、階層的な秩序観であります。

 このロシアの世界秩序観に基づけば、ウクライナはロシアの属国という位置づけになるでしょう。ウクライナはしかし、そのような属国化を避けるために、EU加盟とNATO加盟を模索していたのだと思いますが、中小国にとって問題は、どの大国によって国の安全保障を守ってもらうのかということですね。北朝鮮やベトナムのように、どこにも属さない国もありますが、そういう中小国のあり方に、学ぶべきことがあるかもしれませんけれども。

 この間、ロシアが中国との関係を改善してきたこと、また、ロシアによるクリミア半島の制圧に対して、西側諸国の制裁は不十分であり、結果として失敗したこと、こうしたことがあり、今回のウクライナ侵略につながったのでしょう。

 本論文では、「アジア・太平洋地域では、ロシアが旧ソ連空間でみられるような主権国家への武力介入を行うとは考えられない」と記していますが、その一方でロシアはウクライナを侵略しました。これは国連の安全保障理事会を中心とするロシアの「多極的世界観」の一つの帰結なのでしょう。


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