■AIがアドバイスをする社会になった

 



 

堀内進之介『データ管理は私たちを幸福にするか? 自己追跡の倫理学』光文社新書

 

堀内進之介さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 とても文体がよくて、引き込まれました。

 

 NTTドコモのCM、「ひとり、ひとつ。Walk with you 「名刺」篇」は、面白いですね。以下のYouTubeです。

 

https://www.youtube.com/watch?v=bb3fWOnet90

 

 スマホのアプリで、名刺を管理することができます。では名刺の整理を「偉い人順」に並べることはできるのか。このCMで、主人公がそのようにスマホ(を擬人化した俳優、渡辺謙)に頼むと、

 

 君がいう偉い人とはいったい何だ。肩書か、それとも地位のことかな。

 肩書で人を並び替える。そんな悲しい整理は私にはできない。名刺に負けるな!

 

というアドバイスが返ってきます。

 このCMは、2011年のものですが、2022年現在、このようなアドバイスができるAIの登場は、現実味を増してきましたね。コンピューターがその自己追跡機能によって情報を集め、私たちの人生に、優れたアドバイスをしてくれるようになる。そういう段階になりましたね。

 もしコンピューターがアドバイスをすることができるなら、それは万人に開かれたものでなければならないでしょう。実質的には、低所得者や社会的弱者が優先的に利用できることが望ましい。そのようにしないと、不平等が拡大してしまいます。

 AIの占いもでてきましたね。

 

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000070707.html

 

 これは、お金を払えば占い師のアドバイスを得られるというものです。この程度のアドバイスであれば、市場で自由な取引を認めてもかまわない、ということになるでしょうか。

 それにしてもアドバイスは、複数のAIから得たいものです。一つのAIのアドバイスに依存すると、リスクが大きいでしょう。

 本書は全体として、データ管理社会の問題点を明らかにしつつも、データ管理技術やAI技術を有効に用いる社会を展望しています。コンピューターは、私たちの自律をどう助けるのか。自律したくない人、自律できない人をどう助けるのか。自律よりもよい人生の理想とは何か、という問題に、私たちを導きます。私も拙著『自由原理』でこの問題をリバタリアン・パターナリズムに即して検討しました。「私たちのウェルビイングを増大させるなら、AIによるアドバイスを認めてもよい」のかどうか。

いろいろ考えなければなりません。例えば、私たちは新自由主義の思想を、それが「自己責任」を求めるものだからダメだ、と批判することがあります。ではAIがアドバイスしてくれる社会、人生や社会のさまざまな判断をAIに任せる社会はよいのか、ということですね。AIにまかせるのはおかしい、ということであれば、だれがどう判断すべきなのか。みんなが「自分のダメさ」を肯定しながらも、社会全体としてはダメではなくて、賢くある社会というのは、どうやって可能なのか。これが問題ではないかと思いました。

 


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