■アメリカのリベラルに期待するには

 


 

三牧聖子『Z世代のアメリカ』NHK出版新書

 

三牧聖子さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 現代のアメリカ政治を徹底的に分析した、熱量のある本だと思います。アメリカのリベラルの視点で、現代の右派勢力の台頭を憂う。パッションに満ちた観察です。刺激を受けました。

 バイデン政権は、実態として、「アメリカ第一」の政策と訣別しなかった、ということですね。民主党もまた、中間層の利益を確保しないと政権を維持できない。だから外交政策については内向きになる。そういう状況が生まれているのですね。これは具体的に、経済政策などで、どのようなデータで示すことができるのか。知りたいと思いました。

 いずれにせよ、世界のなかで、米国の経済力とプレゼンスが相対的に低下する。そして、米国を模範にしない国が増えていく。そうなると国際秩序は、不安定になります。プーチンのウクライナ侵攻を、容認することになってしまう。そのような帰結を避けるための政治を、各国が真剣に模索しないといけないですね。米国のリベラルはこの点で、内向きな国民に対して、国際政治問題を啓蒙する役割を担っているのだと思いました。

 もう一つ、米国の共和党は、スウェーデンのV-Dem研究所の分析で、その政治的立場の権威主義化が加速している、というのですね。「政治的多様性を尊重しているか、反対勢力を悪魔視するような言動はないか、マイノリティの権利を尊重しているか、暴力の使用を肯定していないか、」などの指標で評価すると、米国の共和党は、ヨーロッパの中道右派政党よりも、トルコのエルドアン政権やハンガリーのヴィクトル政権といった権威主義的政権に近い、というのですね。52頁。

 そうすると、米国の民主党も、やはり並行して権威主義化しているのでしょうか。気になりました。

 ポリティカル・コンパスの分析では、戦後の大きなトレンドとして、米国の共和党も民主党も、権威主義化したとされます。冷戦期の「社会主義vs資本主義」というイデオロギー対立と比べると、現在の共和党と民主党のイデオロギー的対立は、いずれも第一象限の「市場主義-権威主義」の枠内で争っている、という結果になる。しかしその中で、現代のリベラルは、どのような主張をする立場なのか。本書はとりわけサンダースに注目して、アメリカのリベラルな政策論を追っています。これは重要な視点だと思いました。

 


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