■コカ・コーラとラムの組み合わせを生んだトバゴ共和国
貞包英之さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
ダニエル・ミラーは、英国で、最も精力的に活躍している消費社会論の研究者ですが、この本が初めての翻訳になりますね。とてもいい本ですね。この本の翻訳の労をお引き受けいただき、ありがとうございました。
本書は、最初と最後が会話スタイルになっています。その会話の内容と文体が、とても洗練されているので、それだけでも読む価値があると思いました。とくに奇抜なアイディアを語る人が登場するわけではないのですが、エコロジーや平等主義の問題がリアルに語られていて、そうしたなかで現代の消費社会をどのように批判するのか、という問題がみえてきます。エコロジストや平等主義者は、消費社会を全面的に否定しそうですけれども、しかし、どうして全面的に否定できないのか、という問題です。ここら辺に、現代人の置かれた状況と、会話の面白さがありますね。
ミラーは本書の第二章で、コカ・コーラのグローバル化について考察しています。一般に、私たちは「マクドナルド化」という言葉を用いて、単一の文化がグローバルに広がっていくことに、憂慮の念をいだきます。
しかし、コカ・コーラというのは、フランチャイズであり、それぞれの地域や国で、独自の特殊文化の文脈に、深く埋め込まれた意味を持つようになったのですね。この点に関するミラーの人類学的考察は、とてもシャープで粋です。
カリブ海のトリニダード・トバゴ共和国では、コカ・コーラを瓶詰めする会社は、ニール&マッシーグループのカニングスという多国籍の会社が引きうけている。この企業の戦略や影響力が、この国では重要な意味をもつのですね。
コカ・コーラの受容は、トリニダード・トバゴ共和国では、アメリカ文化の受容ではなく、「ラムとコカ・コーラ」という特別な組み合わせの文化を意味しました。そしてこれがディープな文化になっていく。ラムと組み合わせない場合でも、コカ・コーラは、「赤い飲み物」とみなされ、他の甘い「黒い飲み物」と差別化されて受容されます。しかも同国では、インド系の住民とアフリカ系の住民で、受けとめ方が異なっていたというのですね。
インド系の住民のあいだでは、甘いものを採りすぎて糖尿病になる人が多いので、コカ・コーラを宣伝する側も、外食時には「赤とロティ(パン)」の組み合わせがいい、といった宣伝をする。こうした新しい文化的文脈が生まれる、というのも興味深いです。