■中道でも極端な政治


酒井隆史/山下雄大編『エキストリーム・センター』以文社

 

三宅芳夫さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 「エキストリーム・センター(極中道)」とは、中道だけれども、そこに極端な思想を取り入れざるを得ないような政治状況、ないし政治の体制ですね。

 ピエール・セレナ著『極中道あるいはフランスの毒(1789-2019)』(2019)は、「極中道」という観点から、フランスの政治史を分析しました。

フランスでは、2017年に、E・マクロンが大統領になります。その時のスローガンは、「右でも左でもなく前へ」でした。

マクロンは、イデオロギー的には穏健です。しかしその一方で、政府の執行権力を強力にコントロールしはじめました。政治的にいろいろな立場が拮抗すると、政治の正統性を、多数派のコンセンサスによって、生み出すことができまません。すると社会は不安定になります。

すると、イデオロギー的には中道で、バランスの取れた政治を行ったとしても、うまくいません。警察権力と軍事力をコントロールせざるをえない状況になります。そのような状況で、「極中道」というは、仕方のない統治方法にみえますが、しかしどうなのか。

 極中道には、別のケースもあります。例えば、ナチスのような極右勢力を、政権の一部に取り入れたドイツです。民主主義を否定し、ナショナリズムを掲げる極右勢力が台頭してきたとき、しかも政治状況が不安定なとき、政権を握る与党は、極右勢力の要求の一部を取り入れざるを得ないでしょう。反対に、極左が台頭してきて、政治が不安定な場合は、政権与党は、その要求の一部を取り入れざるを得ないでしょう。いずれも、極中道と言えます。

また極中道は、次のようなケースでもありえます。中央の穏健派は、穏健な左派と、穏健な右派のバランスを重視します。その場合、穏健な左派が、新自由主義の政策を支持するケースがあります。最近のフランスでは、『ル・モンド』『リベラシオン』『ヌーヴェル・オブセルヴァトゥール』といった、中道左派の雑誌が、新自由主義を支持するようになったというのですね。このような穏健左派は、新自由主義という右派のイデオロギーに賛成しているので、「極中道」と呼びうるというのですね。

 この他、ウクライナ戦争を受けて、西欧諸国は、軍事支出を増やす方向に向かっている。このような軍事強化の路線も、「極中道」と呼びうるのですね。従来の左派は、いま、二つに分かれている。一つは、新自由主義と軍事力強化に賛成する「極中道」です。もう一つは、これらに反対する従来型の左派です。こうした分裂状況で、従来の左派の立場から、穏健な左派を批判する際に、「極中道」という言葉が用いられるのですね。

 極中道という言葉には、いろいろなニュアンスがあります。多党制の状況下では連立政権を作ることが必要で、そのためには、各種の異なるイデオロギー的立場をまとめる言説も必要です。しかしそのような連立のための政治言説は、骨のない、日和見主義的なものになるかもしれません。あるいは、暫定的で、薄っぺらいレトリックのように響くかもしれません。こうした状況で、政治はどう対応すべきか。まさに現代の私たちの問題だと思いました。


このブログの人気の投稿

■「天」と「神」の違いについて

■リベラルな社会運動とは

■ネオリベラリズムは最大の経済思想