■市民社会から公民社会へ
石井知章/緒形康/鈴木賢編『現代中国と市民社会』弁誠出版
王前さま、ご恵存賜りありがとうございました。
中国における市場経済の解放は、同時に、政府が「社会的領域」からも手を引いて、そこに「市民社会」を形成していくという過程でもあったのですね。
これは日本の文脈で解釈すれば、新自由主義化と市民社会化の同時進行であります。
市民社会というのは、最初は市場を通じて経済的に独立した人たちの活動でした。その活動が成熟すると、市民社会の担い手たちは公的領域に参与し、国家の政策に影響を与えるようになります。この後者の意味での「市民社会」は、「公民社会」と中国で呼ばれるのですね。成熟した市民社会は、国全体が繁栄するために、政府が効率的に営むことのできない諸領域の活動を引き受けていくことになります。
それが現在、どのような性質を帯びているのか。どのように変容しているのか。現代の市民社会論は、この問題を解明しなければなりません。
中国でもおそらく最初は、平田清明が問題にしたような「社会主義体制における個人の財産権や自律領域の確立」が問題になったのでしょう。
けれども現在、市民社会論の新しい資源は、Richard Falkなど、何人かの論客たちによって論じられていることが、本書で紹介されています。
ただ本書は、これらの議論を理論的に消化するところまではいっていませんね。日本でも80年代以降、市民社会論の新たな理論家・思想家は生まれず、実践的にはともかく、学問的には停滞しています。その意味で、現代市民社会論の研究はいま、最も重要的な思想分野の一つであると思います。