■クィアの法哲学というフロンティア

 

綾部六郎/池田弘乃編『クィアと法』日本評論社


綾部六郎さま、池田弘乃さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 法哲学のフロンティアですね。この冒険的な研究に、敬意を表します。

条例レベルではすでに、性自認や性指向を原因とする差別行為を禁止する動きがあります。性同一障害の特例法では、手術要件の合憲性をめぐって、最高裁が一定の司法判断を下しています。そうしたなかで、2019214日、同性婚が認められていない現在の法制度は違憲である、という判断を求める裁判が、各地で起きました。

「クィア」というのは、レズビアンやゲイに固有の問題がまとめて同一視されることへの反対、レズビアンをめぐるジェンダーの権力非対称性の問題化、人種・階級とセクシュアリティの交差という視点、両性愛やトランスセクシュアリティへの視点、などを含む総合的な営みのことですね。

このなかに「アセクシュアル」という、性的欲求が欠如していたり、きわめて弱かったりするケースの問題も含まれます。イギリスの調査では、人口の約1%は、そのような人たちであると。これは、性に対する嫌悪というよりも、性に対する無関心ということですが、これが何で社会的に問題になるのか。相手の求めに応じたくないという苦痛が、臨床的にみて病気と言えるレベルにまで上がる、ということですね。

この他、「ハッテン場(発展場)」という、見知らぬ男性同士が性交渉をするために利用する場(宿など)について、本書では興味深い検討がなされています。そこには「プロ」と呼ばれる人たちがいて、同意に基づく性交渉ののちに、多額の金銭を要求する。それで被害にあう人が結構いるのですね。プロは、モテるタイプの男性だと。トラブルに巻き込まれないための法的な対応が必要です。

 


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