■「不良」とは、映画館でナンパする人のこと

 


 

遠藤薫編『日本近代における〈国家意識〉形成の諸問題とアジア』勁草書房

 

遠藤薫さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

夏目漱石はロンドン留学の二年間、不愉快であわれな生活を送ったといわれますが、そのときの「神経衰弱」と「狂人」的な感覚が、のちの文学作品の糧になっているのですね。人生において、こうした危機的な時期がないと、人はなかなか独創的な作品を生み出せないのかもしれません。

 漱石のロンドン滞在で、もう一つ注目すべきは、彼がカール・ピアソンの『科学の文法』第二版を読んだということですね。実際に漱石は、さまざまな書き込みをしている。文学論よりも、この科学論のほうが、夏目漱石のいう独自の「個人主義」の思想につながっているとみることができます。これは興味深い論点です。

 本書の第九章では、日本における「不良」文化の形成について、興味深い史実が掘り起こされています。

明治44年(1891年)、浅草で無声映画が公開されます。その当時、映画館は、不良がたむろするうす暗い空間として評判になったのですね。「不良」とは、当時、映画館でナンパする人のことであると。上映中に、女性の手を握る「にぎり」。女性に名刺などを渡す「ぶつ込み」。上映後に女性の後を付け回す「追かけ」。こうした行為は、不良少年のあいだで流行りました。無声映画の原作の名前を採って、「ジゴマごっこ」と呼ばれたのですね。結局、ジゴマは放映禁止になってしまうわけですが、これが日本で最初の不良文化の一つになったと。


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