■移民の受け入れは帰結で考える






ジョセフ・カレンズ『不法移民はいつ〈不法〉でなくなるのか』横濱竜也訳、白水社

横濱竜也さま、ご恵存賜りありがとうございました。

 これは翻訳の分量よりも、横濱さんの解説の方が長く、しかも内容が充実しているので、横濱さんの単著といってもいいくらいですね。
 このテーマをめぐる思想的な問題と現実の政策について、体系的に書かれています。全体が見えてきました。
 不法移民を受け入れると必ず差別や排除が生じる。だから受け入れるべきではない、という論理はおかしい。けれども受け入れるということは、必然的に生じるであろう差別や排除の問題に対処しなければならないことを意味します。生じうる差別と、その後の差別しない対応(実践知の蓄積)と国家間の秩序を比較して、後者のほうが帰結的に望ましいという、政治的判断をしなければなりませんね。
 移民の受け入れについて、ナショナリズムに対抗する平等論や関係的平等主義は、しかし、受け入れをめぐって一つの共通見解を導くことができるわけではありません。ドゥウォーキンにせよアンダーソンにせよ、関係的な平等の範囲をめぐっては、あまり理論的な考察がないとの印象をうけました。「運」や「関係」は、やはり文脈の中ではじめて具体的にイメージできるものであり、国際関係のなかで「運」や「関係」の問題を考えると、やはり「どうしてこの国に生まれたのだろう」という具合に、国を単位として「運」を意味づけてしまいますね。そういうリアリティがあります。これを乗り越えるためには、文脈についての豊かな想像力が必要だと思いました。


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