■「よい趣味」よりも「真剣なレジャー」
宮入恭平/杉山昂平編『「趣味に生きる」の文化論』ナカニシヤ出版
神野由紀さま、ご恵存賜りありがとうございます。
本書は、「シリアスレジャー」と呼びうるさまざまな現象を検討しています。シリアスレジャーとは、専門的な知識やスキルを用いて継続的に行うものであり、それは「本気」で「真剣」で「真面目」で「ひたむき」であるようなレジャーです。これに対比される営みは「カジュアルレジャー」であり、それはすなわち、専門性はなく、場当たり的で、気楽で、リラックスできるようなものです。
おそらく多くの趣味は、この二つの要素を兼ね備えているのでしょうけれども、その「シリアス度」を高めていくと、どうなるのか。人間の生き方の問題として、興味深いです。
1970年代以降、消費文化が発展して、「ホビー(趣味)」の数が爆発的に増えます。するとホビーは、同じ志向をもった人たちをつなぐものとなります。極めて限定された、私的な集まりが生まれます。ホビーを共有する人たちのあいだでは、「よい趣味」という教養の理念は成り立たず、グッド・テイストという言葉も成り立ちにくい状況になるわけですね。
その一方で、アマチュアの趣味が発展すると、こんどはその趣味でもってお金を稼ぐ人たちが出てくる。趣味といえども資本主義の発展とは無縁でなく、資本主義の観点からすれば、私たちが「よい趣味」を築くよりも、市場経済と結びつくような「文化資本」を担う方が望ましいのでしょう。成熟した資本主義社会においては、「ホビー」は資本の観点から、さまざまな方向に発展していく。そしてこの「ホビー」のなかから、「シリアスレジャー」もまた生成し、発展していくのでしょう。文化的な成熟よりも、真剣さの倫理(精神)に焦点を当てた本書は、その着眼点がとても面白いと思いました。