■社会主義の具体的なデザインとは


松井暁『ここにある社会主義』大月書店


松井暁さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

 最近、松井先生の最新刊をお送りいただいたばかりですが、すみません、前著からコメントさせていただきます。

本書は、「ここにある社会主義」というテーマで、いまどんな実践が社会主義の社会を作っていくのかという問題に、具体的な指針とビジョンを与えています。

 2020年の意識調査で、「現在、社会主義の理念は社会進歩にとって大きな価値をもつか」という問いに「そう思う」と答えた人の割合は、日本では21%でしたが、多くの国では50%程度になりました。アメリカでも39%。日本よりも高いですね。中国では84%と断トツです。ちなみにロシアは55%でした。

 社会主義という言葉を使うとき、本書のように、「ソ連・中国のようなソ連型社会体制を社会主義とは認めません」(21)、それに対して「北欧諸国は今日の世界で最も社会主義に接近している」と評価するのは、私は、適切ではないように思います。むしろ、「いい社会主義」と「悪い社会主義」という言い方をした方がいいのではないでしょうか。

 ソ連も中国も、思想としては社会主義であり、いい社会主義の国を作ろうとしたし、いまも作ろうとしている。まずこの点を認めよう、ということです。その上で、しかしなぜ社会主義の建設は、悪い社会主義になってしまうのか。この問題を分析し、説明することが必要だと思います。この点が、自由主義と社会主義のあいだの最大の論点だと思うのです。

 もう一つの論点は、労働者と市民が生産手段を共有して、自らの意思で運営するという社会主義の理想です(26)。このような理想を、国家と市場のいずれも媒介にしないで、どのように運営することができるのでしょうか。このビジョンをどこまで真剣に探求できるでしょうか。私はここに、社会主義の問題があると考えます。もしコーポラティズムをこえて、社会主義にいたる道筋を具体的に描くことができないとすれば、私はこの生産手段の共有のビジョンは、コーポラティズムで止まっている、と思います。これまで誰が、コーポラティズムを超える社会主義のビジョンを具体化したのか、という問題です。

 他方で、日本で2020年に、「労働者協同組合法」が成立したのは興味深いですね。この組合に加盟している会社は、労働者が一人一票で意思決定して運営できるのですね。これに対して、「従業員所有企業」というのは、「一株一票」、つまり個々の従業員がもつ株の数によって、民主的な意思決定に影響力の差が出るような意思決定の仕組みになっているのですね。この二つの違いは興味深いです。

 労働者が一人一票で会社運営にかかわることが、社会主義社会への前進であるとして、すべての労働者が一人一票で経済全体の生産にかかわると、これを社会主義の体制と呼ぶことができるでしょう。しかしこれが可能であるとすれば、どんな投票の仕組みになるのでしょうか。労働者たちは、何をどのように決めるのか。市場社会主義を超えて、このメカニズムを具体的に描く思想家が現れてほしいものです。

 

 

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