■贈与の履歴をブロックチェーン化する


荒谷大輔『贈与経済2.0』翔泳社


代真理子さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

ある人に贈与する。そしてその事実を、ブロックチェーンで記録して、150人以下のコミュニティで、情報を共有する。するとそのコミュニティでは、贈与すればそれだけ信頼を勝ち得ることができる。そのような「贈与→信頼」のコミュニティを作ってはどうか、という提案ですね。

 私はこの贈与経済のコミュニティに参加したいと思いますが、しかし同時に、これは怖いシステムになるかもしれないし、成功しないかもしれないし、という不安もあります。

 不安の一つは、自分が贈与したことに対して、コミュニティがあまり評価しない可能性です。すると一年後に、私はもしかすると、150人中、150番目の信頼度しか勝ち取ることができないかもしれません。するとどうなるでしょう?

私はおそらく、脱退したいと思うでしょう。そして新しいコミュニティに参加したいと思うでしょう。しかし、あるブロックチェーンのコミュニティで低く評価された私を、別のコミュニティは受け入れてくれるのでしょうか。不安です。

この場合、ブロックチェーンのコミュニティは、すべて自発的結社です。それぞれのコミュニティは、誰が参加できるかを決める権利をもっています。すると、他のコミュニティで低く評価された人を、受け入れないかもしれませんね。

このような問題を解決するためには、贈与経済2.0は、メタ・コミュニティの視点で、コミュニティ間のルールを決めなければなりませんね。しかし誰がメタ・コミュニティのルールを決めるのでしょうか。自生的に、すぐれたルールが生まれるのでしょうか。不安です。

もしかすると、ほとんどフリーライドするようなメンバーが9割くらいになって、贈与されても「負債の感覚」や「何か返さないといけないという罪悪感」をまったく抱かずに、ひたすら「フリーライドで儲かる」という感覚で参加するような人も出てくるかもしれません。そのような場合、贈与経済2.0は成り立つのでしょうか。

 おそらく、うまくいく贈与経済のコミュニティは、メンバーを制限するのでしょう。フリーライドは一定以上認めない、というルールを作って、参加者を選別するのでしょう。

 しかしそれにしても、私が贈与できて他人に喜んでもらえるものと、私が他人から贈与してほしいものが、うまくマッチングするのでしょうか。素朴な疑問が湧きます。いったい実証実験でどんな結果が出るのか。今後の報告を楽しみにしています。


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