■政治家に必要なのは思想、戦略、未来



エマニュエル・マクロン『革命 仏大統領マクロンの思想と政策』ポプラ社

 

 吉田徹さんが「いい本」だと言っていたので、読んでみました。

 大きく分けて、二つ学びました。一つは、フランスはいま、衰退している。社会が分裂しつつある。そのような状況で、大統領に課されたミッションは何か、という問題意識です。これは日本でも、おそらく10年後には、同じような言説が必要になっているのではないかと想像します。

またマクロンの政策思想は、「新しいリベラル」に近いです。未来に投資するという考え方を前面に出しています。「私はイノベーションと投資に重きを置いた。野心的な産業振興政策をつくりだそうとした」と(43)。平等主義ではない、公的支出を増やすのでもない、イノベーションを導くのだと。(ただし少子化対策については、それほど論じていません。)

「まず、国家の役割を劇的に変えることから始めなければならない。国家は、真の「社会への投資家」となり、個人個人が何者かではなく、どのような人になることができ、集団に何をもたらすことができるかによって判断しなければならない。したがって、社会保障を充実させるだけで満足してはならない。それは国家が最低限やるべきことにすぎない。」(187)

 マクロンによれば、大統領に課された課題は、再分配のために経済に占める政府部門の割合を大きくすることではなく、経済を発展させることです。この文脈でマクロンは、1970年代に労働者の自主管理経営で話題になった、リップ社に触れています。

リップ社は、ブザンソン市の時計会社です。ブザンソン市はそれまで、時計産業に投資してきました。しかし時代は、クォーツの技術によって、デジタル化へと転換していきます。従来の時計産業は、やがて淘汰されるという局面を迎えました。しかしその後、ブザンソン市では、公立研究所と民間企業が中心となって、各種の精密技術に投資します。現在、同市はマイクロテクノロジーの中心地として生まれ変わったというのです。斜陽産業の町から、いかにして新たな産業を興していくのか。ブザンソン市の経済発展戦略を、私たちは学ぶ価値がある、というのですね。(217-218)

 そしてもう一つ、この本の特徴は、第一部が「思想」、第二部が「戦略」、第三部が「未来」となっていることです。現在のフランスの政策ビジョンを綜合的に語るのではなく、自分がどのような戦略を持っているのかについて語る。これが重要ですね。そして何よりも、マクロンは自分の思想を語っている。この本の最後に、長期の「未来」展望を語っている。この三つの「語り」は、日本の政治家があまり言語化してこなかったテーマでしょう。日本の政治家も評論家も、この三つを論じることができるようにならなければならない。マクロンの企てに学ぶことは多いです。

 マクロンは、幼少期を次のように振り返っています。「私は、少々浮世離れした子供時代を本のなかで過ごした。フランスの地方都市で、一日じゅう読書をし、作文を書くというとても静かで幸せな毎日だった。その頃の私は、まさしく文章や言葉とともに生活していた。」(27)

 そしてマクロンは、フランス共和制の再興を目指します。「私たちフランス人が愛する共和制、奉仕しなければならない共和制は、フランス人全体を解放する共和制である」と(75)

 このように、マクロンは自分の思想と、その形成過程を述べています。思想がなければ、国がまとまらない。国家の成熟は、このような思想的・文化的な成熟を伴うべきなのではないか、と思いました。

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毎日新聞のインタビュー記事につきまして、訂正します。

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