■地球温暖化対策:値段のないモノに値段を付ける知恵
福井昌子さま、作品社さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
本書はとてもいいタイトルですね!原書のタイトルは、The value of nothingです。こちらもいいタイトルです。
著者はジャーナリストですが、経済思想の歴史を、深い次元で論じています。最近の興味深い話題がたくさん仕込まれていて、経済思想の入門書としても、おすすめです。
モノの「値段」と「価値」が異なることはよく知られていますが、市場メカニズムの面白い点は、市場で値段がつかないモノにも、人工的な値段をつけて、人工市場を作って売買することができる、という点です。
例えば、二酸化炭素排出量の取引です。二酸化炭素には、もともと値段はありません。けれども全体として排出量を抑制するために、これを取引できるように、排出量に対して単価をつける。それでもって、排出量の全体を削減するインセンティヴを各国に与えるわけですね。
このような人工の市場は、必ずしもうまくいくわけではありません。
人工市場は、「炭素クレジット」という考え方を採用します。これは、諸国間で取引する温室効果ガスの削減証明書のことです。もし自国で、目標として設定される排出削減が達成できない場合には、排出枠を余らせている国から、その分を買い取ります。反対に、目標が達成できているときは、他国が排出する炭素を購入する余地があります。
さて、排出権の一つに、冷媒ガスを製造する際に排出されるトリフルオロメタンの分解物があります。南側の発展途上国にある企業(17社)は、いま、時代遅れの製造技術を使っています。もしこの17社の企業が高性能の設備を導入すれば、そのコストは1億ユーロかかりますが、トリフルオロメタンの分解物を著しく減らすことができるでしょう。結果として世界の二酸化炭素排出量は減るでしょう。しかしこの17社の企業は、そのような出費をして設備を導入しなくても、すでに排出権枠のおかげで、47億ユーロも儲かります。新しい技術を導入するインセンティヴがない、というわけですね。
炭素の価格を変化させて、これをうまく設定すれば、このような問題は解消されるのでしょうか。人間の知恵が問われていると思いました。