■コロナ感染症対策と新自由主義
杉村昌昭さま、作品社編集部さま、ご恵存賜り、ありがとうございます。
本書は、ジャーナリストである著者のマリー=モニク・ロバンが、62名の科学者にインタビューを行ってまとめたものです。
マリー=モニクは、『モンサントの不思議な食べもの』というドキュメンタリー映画を作って話題になりました。この本においても、マリー=モニクは科学的な知見を広く集め、コロナ・パンデミックに関する多角的な分析になっています。
最も面白かったのは、訳者解説です。このパンデミックへの各国の対応は、新自由主義だから悪い、と訳者は言います。
コロナ・ウィルスの起源となった中国の経済体制は、他の国と同様に、新自由主義であります。しかし中国の経済は、権威主義的な国家と結びついている。だからこれを、「権威主義的新自由主義国家」と呼ぶことができるでしょう。
コロナ・ウィルス感染症に対して、中国とフランスの対応はともに、ロックダウンという強権的なものでした。これは、権威主義的新自由主義の体制による対応であると言えます。問題は、こうした統治手法に対して、リベラルも左派も、賛成ないし追従しているという点です。いったいこれはどういうことか、というわけですね。
新自由主義を批判する左派は、権威主義的な統治にも反対するはずです。だからロックダウンという手法にも反対するはずです。しかしそうなっていない。
新自由主義を批判する左派は、どうしたのか。新自由主義とロックダウンに反対する左派は、主流の左派ではなく、アナキズムである、ということでしょう。アナキストたちは、リバタリアンとともに、ロックダウンに反対するでしょう。
米国では、共和党支持者のリバタリアンが、政府の権威主義的な政策に反対しました。訳者によれば、このような権威主義批判(ロックダウン批判)は、この本のなかで紹介されている、どの科学者の見解でもないということですが、これはつまり、訳者独自の見解なのですね。
日本では、コロナ感染に対しては「コンフォーミズム」や「自主規制」を前提にした対応がなされました。権威主義的な権力は、強く行使されませんでした。アナキズムの立場からすれば、それはそれで問題なのでしょうけれども、権威主義的ではないという点で、日本はフランスや中国よりもマシな国である、ということになるでしょうか。