■学長の任期撤廃は許されるのか

 


 

寄川条路編『学問の自由と自由の危機』社会評論社

 

寄川条路さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 

本書の副題は、日本学術会議問題と大学問題です。

平山朝治先生の論稿を、興味深く読みました。

いま筑波大学の学長は永田氏で、本当は学長の任期があったのに、ルールを改正して、無期限の任期にしてしまったのですね。朝日新聞で、この問題が取り上げられています。以下、引用します。

 「永田氏は20134月に、任期途中で病気で退いた前任者を継いで学長に就任。例外的に8年間の在任が認められていた。今回の学長選で、学内規則の変更で上限6年の学長任期が撤廃されたほか、常勤教職員による意向調査投票も廃止された。選考会議メンバーも永田氏が任命していた。このため、教職員の間から「現職の続投ありきの手続きが進められている」と不満が噴出し、公開質問状や選出の延期を求める要求書が送付されたりして学内が紛糾していた。」

https://www.asahi.com/articles/ASNBN6V6XNBNUJHB00T.html

 このように、学長の任期が撤廃されただけでなく、常勤教職員による意向調査投票も廃止されたのですね。これでは学長の独裁体制になってしまう。

 学長の任期の撤廃は、短期的にみれば、大学の統治力を上げて、大学のランクを上昇させることに資するかもしれません。例えば筑波大学は、軍事関係の研究という点で、科学研究費を多く獲得したりするかもしれません。あるいは、政府からの公的資金を、さまざまな面で得ることが容易になるかもしれません。しかし長期的にみると、別の学長が選ばれたときに、リスクが高くなる。現在のロシアや中国が抱える統治リスクと同じようなリスクを抱えることになるでしょう。

 この任期撤廃の問題と、もう一つは、軍事研究の範囲に、大学が全体としてどのような制約自らに課すのかという問題があります。軍事研究についていえば、永田氏の見解は、「相手国の領土や国民を侵すことにつながるアタッキング(攻撃)するもの」とか、「攻撃に使う兵器開発に関わるのが軍事研究だ」(64)というのですね。

 この定義では、ほとんどの軍事研究が許されることになります。

 しかし平山先生は、こうした一連の動き(すなわち、軍事研究を認めることと、学長の任期を無期限にすること)が、永田氏の政治的な野心によるというよりも、背後でなにか力が働いているのではないか、と推測するのですね。

 たしかに、日本政府がいま、ウクライナ戦争を受けて、軍事費を増大させるというときに、その軍事費の一部を軍事研究に向ける必要があるでしょう。その研究を誰がやるのか。大学は重要なセクターになってくる。これは筑波大学だけではなく、すべての大学に求められる政治的要請でもあるでしょう。こういう大きな政治的動きがあり、その中で平山先生は裁判を起こし、いま闘っている。これはご自身のおかれた立場と政治的な信条を誠実に引き受けた実践であると思います。心より敬意を表します。



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