■マルクス主義の新たな指針を明快に提示する






デヴィッド・ハーヴェイ『資本主義の終焉』大屋定晴、中村好孝、新井田智幸、色摩泰匡訳、作品社

訳者の皆様、ご恵存賜りありがとうございました。

 この本は、とてもいい本だと思います!
ハーヴェイがこれまで書いた本の中でも、最も明快なメッセージで、マルクス主義の可能性を体系的に、説得力あるかたちで提示しています。
 資本主義には、いろいろな矛盾がある。その矛盾を17個に整理して、それぞれマルクスがどのように論じたのかを説明していく。すると可能性として、それぞれの矛盾を解決するための政策指針が出てくる。これはマルクス主義の規範理論としての新たな可能性を明確に示した、すばらしい本ではないでしょうか。
 例えば、使用価値の問題は、住宅、教育、食糧安全保障などの具体的な財・サービスで、これを市場に任せるのではなく、すべての人に対して直接供給することが提案されます。これはある意味で、現在の社会でも実現してきたことであり、この方向でさらに問題を考えるとすれば、住宅について、これまでとは別様な公共的供給のあり方をさぐるとか、そういう想像力を刺激するでしょう。
 あるいは、財やサービスの流通を円滑にするための交換手段を創設することが提案されます。貨幣よりも円滑な交換手段とは、どのようなものか。地域通貨の可能性が一つですが、私的個人が社会的権力の一形態として、貨幣を蓄積できる可能性は制限されなければならないと。こうした、社会的権力を監視して批判的に対処するという、啓蒙の役割についても、マルクス主義は十分に現代的な意義をもつでしょう。
 他にもいろいろありますが、「おわりに」でまとめられた17の政治的実践は、いずれも意義深いものであり、それぞれの個別の実践を、マルクス主義は思想的に束ねているということに、改めて驚きを覚えました。現代におけるマルクス主義の思想的可能性を知るための、すぐれた指針の書です。ハーヴェイの本の中でも、これが一番いいと思います。


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