■新しい市場の開拓が、市場を共同体に埋め込むことにつながる






大倉季久『森のサステイナブル・エコノミー』晃洋書房

大倉季久さま、ご恵存賜りありがとうございました。

 現代日本の林業がどのような可能性をもっているのかについて、フィールドワークに支えられた分析を展開されています。
 よくカール・ポランニー流に、市場を共同体の文脈に「埋め戻す」、ということが語られます。国内の林業は、格安な輸入材には勝てないので、国内の木材を商品化するとしても、やはりなんらかの公的補助が必要であり、そしてその補助は、市場を共同体の文脈に埋め戻すようにものでなければならない、といわれます。
 しかし安易に埋め戻そうとすると、うまくいかないというのですね。
 木材市場では国内の木材と輸入材との競争の結果、製材業と林業のあいだに亀裂が生まれました。国内の林業が全体として生産を縮小していくという局面において、関係者たちの協力関係を築くことはむずかしいのだと。
 そうした状況のなか、徳島県では「TSウッドハウス協同組合」が生まれます。この協同組合は、「近くの山で家を作る運動」というものを立ち上げて、育林から製造品の加工まで、すべてをコーディネートするという協力体制を作るのですね。林を育てるところから、最終生産物の生産まで、プロセスの全体を管理していくという、新しい関係を生み出していく。
 もっともこうした取り組みは、林業全体からみれば、小さな企てに過ぎないでしょう。しかし地域内に新たな信頼関係を築いていった。その意味で一つの可能性を示しています。こうした取り組みは、いわゆる市場の共同体への「埋め戻し」という保守的なイメージではなく、むしろ新しい企てであり、新しい市場の開拓でもありますね。
国内の林業を守るために市場経済社会を批判するのではなく、そのような批判を超えて、新たな市場を開拓することが、共同体への埋め込みにもなるという、新しい思想を示しているようにも思いました。


このブログの人気の投稿

■「天」と「神」の違いについて

■自殺願望が生きる願望に反転する

■ウェーバーvs.ラッファール 「プロ倫」をめぐる当時の論争