■「ホビー(趣味)」は「テイスト(嗜好)」よりもすぐれている





神野由紀/辻泉/飯田豊『趣味とジェンダー 〈手作り〉と〈自作〉の近代』青弓社

神野由紀さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

 雑誌『ジュニアそれいゆ』、いいですね! 本書にはこの雑誌からの、いろいろな写真が掲載されています。「ジュニアそれいゆ」の世界のなかに引き込まれてしまいます。いったいこの感覚は何でしょう。少女が生み出す独特の趣味世界ですね。
 明治時代の少年たちは、「文学」に関心を寄せたけれども、大正時代になると、国策として近代化・産業化を推進すること、優秀な技術者(テクノクラート)を養成することが掲げられ、この規範が子どもたちの趣味にも浸透していきます。また、近代的な男女分業が成立して、女性は主婦として家事を担い、それ以外の時間は、家庭をより美しく快適にするための手芸をすることが、推奨されはじめます。「良妻賢母」の理想ですね。
大正後期になると、男性(少年)の趣味は「工作」、そして女性(少女)の趣味は、「手芸」となっていく。
 しかしこうした社会の機能的な目的に合わせて趣味を形成する時代はやがて去り、趣味というのは、「社会に役立たないもの」へと変化していく。もちろん、何かを作るという「クラフツマン」の精神は、いつの時代にも、人間にとって一つの本質的な営みであったでしょう。「手作り」は、それ自体として、人間に何らかの生きがいを与え続けてきたのでしょう。では現在、「手作り」の趣味がもつ意義とは何でしょうか。本書では、それぞれの立場からいろいろな議論が展開されています。
 いずれにせよ、手作りの特徴は、たんに「テイスト」を磨くという「判断力」中心の消費文化ではなく、生産文化の一つでもあるということですね。「ホビー」は「テイスト」とは違うのであると。何かを生み出していることの快楽と、何かを享受していることの快楽のあいだに、大きな違いがある。この点から消費文化を見直す価値があると思いました。

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