■地域通貨とプライバシー





西部忠編『地域通貨によるコミュニティ・ドック』専修大学出版局

西部忠さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。

本書は編著ですが、とはいえ西部先生はほとんどの章の執筆にかかわっていますから、これはもう単著に近い成果ですね。またこれまでの地域通貨研究の集大成でもあると思います。成果の刊行を心よりお喜び申し上げます。
 地域通貨が、まずコミュニティを再生するという関心から生まれ、それぞれのコミュニティにおいて、地域通貨を発行したいという市民的な担い手によって自発的に運営されるという場合に、その運営を支援するためには、コミュニティが抱えている諸問題を診断して、ふさわしいやり方で地域通貨の発行を考えなければならない、というわけですね。
 地域通貨は法貨(日本の円)と比較すると、流通範囲に制限がありますが、そこに割引券のようなプレミアムをつけることができる。あるいは一定の地域でしか使えないということで、それを受け取る際の心理に違いがあるでしょう。
例えば、有償のボランティアをした場合に、その対価を日本円でもらうよりも、地域通貨でもらったほうが、地域に貢献したことに対する対価として、喜んでもらえる可能性が高いかもしれません。けれども若者になるにしたがって、そのようなコミュニティに対するプレミアム感は減っていく、というわけですね。
 別の問題で、地域通貨を流通させる際に、その通貨(紙幣)の裏に日付や名前を書いてもらうと、地域通貨がどのように流通したのかが見えてきます。しかし地域通貨に名前を書くというのは、プライバシーの問題をはらみます。抵抗が生まれるでしょう。20054月より、個人情報保護法が施行されましたが、その後はとくに、この記入式の地域通貨は、なかなか流通しなくなるというというか、無記入で流通するケースが多くなってきた、というのですね。地域共同体の協働価値とプライバシーの権利のいずれを優先するのか、という問題が生じたのであると。
 流通のネットワークについての分析は、すぐれた成果が得られていると思いました。流通のいわばハブになる人と周辺的な人のあいだに、一定の分布の関係が生まれていることが分かります。

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