■「ヒーブ」と呼ばれる女性たち
満園勇さま、ご恵存賜り、ありがとうございました。
手作りパンなどを作ることができる電子レンジに、スピーディな加熱や温め直しの機能を付けたシャープの「オーブントースターレンジ」。1986年発売の、働く女性向けの家電シリーズの一つです。
もう一つ、消費者からの問い合わせや苦情に対応しながら、「お客様」の声を商品開発に活かすという取り組み。例えばサントリーの「お客様相談室」というものが、当時、ありました。
こうした仕事で活躍したのは、「ヒーブ」と呼ばれる女性たちだったのですね。1986年は、男女雇用機会均等法が施行され、女性総合職が誕生した年でもありました。
ヒーブとは、Home Economists in Businessの略です。企業で働く家政学の専門家、という意味でしょうか。アメリカでは1967年に、この言葉が正式に学会で承認されました。ヒーブたちは、マーケティングの仕事を担うようになりました。そして1978年に、「日本ヒーブ連絡協議会」が結成されています。
日本企業は、学歴の高い女性に、ヒーブという仕事を任せた。いわば「消費者のケア」を任せたのですね。「家庭におけるケアを担う女性だからこそヒーブとして企業で活躍できる」と(23)。
しかし、日本ヒーブ協会の会員数は、1995年を境にして減少に転じます。ピーク時には430名だった会員は、2020年には64名に減りました。これは一つの歴史的社会現象として、興味深いです。「男性稼ぎ手モデル」から「共働きモデル」へと移行する過程で、「ヒーブ」という役割が生まれ、そしてそれが衰退していく。ただし、本当に衰退したのか、という疑問もあります。消費者のケアは、私たちの経済社会において、むしろ全般化したのではないかとも考えられます。
いずれにせよ本書は、着眼点がいいですね。新しい資料を掘り起こして、消費社会の歴史に新たな光を当て、徹底的に調査しています。