■マルクスにとっての記念碑

 



カール・マルクス『一八世紀の秘密外交史 ロシア専制の起源』カール・アウグスト・ウィットフォーゲル「序」、石井知章/福本勝清編訳、周雨霏訳、白水社

 

この本、すごいです。打ちのめされました。

 マルクスが人生の半ばに、英語で書いたものです。雑誌に初出したのは、1856-1857年。マルクスは1818年生まれなので、38-39歳のときに発表したものですね。書籍としては、1899年に出版されました。しかしこの本は、『マルクス・エンゲルス全集』には収録されませんでした。ロシアの専制主義について批判しているからです。

 この翻訳は、すでに1979年に、石堂清倫訳で、出版されていました。今回はその新訳なのですね。

 きわめて価値のある内容だと思います。歴史研究書として、最高の水準であることは確かです。そして何よりも、私が驚いたのは、マルクスがこの本の内容に、相当な自信を持っていることです。マルクス本人にとっても、この本が最高の成果であったのですね。マルクスは次のように書いています(133)

 「自慢ではないが、私はこの小史がこれまで誰にも気づかれなかった事柄を論じるという希少価値をもつものであるがゆえに、現代世界という新時代への価値ある贈物として、後代の人びとがいつまでもそのように受け入れ、かつ新たな時代ごとに読み返され、人々の戒めの一篇と呼ばれるものになるだろうと自負している。他の人びとと同様に、私はわが記念碑(Exegi-Monumentum)を持たなければならないのである。」

 マルクスはつまり、この本を自分にとっての「記念碑」だと考えたのですね。

 マルクスの記念碑は、しかし、いまや『資本論』です。けれども、38歳のマルクスにとって、このようなロシアをめぐる専制支配の歴史を剔抉することが記念碑であったというのは、恐ろしいことのように思いました。

 学問の恐ろしさを改めて実感します。


 

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