■小泉信三は社会主義者
楠茂樹/楠美佐子『昭和思想としての小泉信三』ミネルヴァ書房
楠茂樹さま、楠美佐子さま、ご恵存賜りありがとうございました。
小泉信三は、共産主義を批判して自由主義を擁護した論客として知られていますが、各種の社会保障制度の拡充を支持していたのですね。その意味では、福祉国家論者の一人であって、ハイエクとは立場が異なります。
社会政策には、どこまでが資本主義を傷つけるもので、どこまでが資本主義を傷つけないものなのかという境界線が明確ではありません。小泉は、社会政策には限度がないという理由から、社会保障を進めることで社会制度は原則的に変わらざるを得ないと考えます。問題は、社会保障制度というものは、一夜にして出来上がるものではなく、そこには漸進的な態度が必要になるということです。その意味で「保守」のスタンスをとるわけですね。
しかしいずれにせよ、ハイエクからみれば小泉は社会主義者だという評価なのですね。社会保障制度をどこまで拡充するのかについて、実践的・実証的なレベルで判断するのが小泉であるとすれば、ハイエクは思想家として、規範理論的な次元でその境界線を明確にしようとしたわけですね。